百鬼一族 血脈の書

百鬼一族 血脈の書

当サイトは俺の屍を越えてゆけ リメイクのプレイ日記となります。

そうだ 大江山、行こう

────ここのところ、芥子の様子が変だ。


「けーしーお前の息子、訓練頑張ってるぜー?

しっかり真面目に取り組んでる。さすが芥子の息子だよなー….って、あれ」


まだまだ太陽の日差しが眩しいある日のこと。樒の命で訓練をしていた梔子は、疲労が見えてきた芹を休ませるついでに、彼の母親である芥子に現状の報告をしようとしていた。部屋にいるだろうと当たりをつけて芥子の部屋を開いてみたが……そこに彼女の姿は無く、もぬけの殻。一人もいやしない。


「居ると思ったんだけど….おーい、芥子ー!」


中途半端に開いた襖を閉めると、梔子は声を上げて芥子を探し出す。しかし休憩の時間が終わる近くまで呼んでみたが、その時は芥子を見つけることは出来なかった。そしてこの日以降、……もしかしたらその前からもそうだったのかも知れないが、芥子を見つけられないことが増えていったのだった。


そして、またある日のこと。


「ふんふんふーん。イツ花ー、芥子ー、出かけたついでに団子買って来た……って、ん?

イツ花、芥子は居ねぇの? 今の時間いつもだいたい一緒に居んのに」


秋刀魚が店頭に並びだしたある日の昼前のこと。備品を買いに行ったついでに、梔子は馴染みの茶屋で団子を購入。昼食後に皆で食べる為に、台所へ置きに行き顔を覗かした。するといつもは昼食の準備をするイツ花と、そのイツ花をよく手伝う芥子が居る筈なのだが、今日はイツ花一人でせっせと動き回って居る。


元々、食事の準備等はお手伝いであるイツ花の領分だ。故に梔子が台所に入ることはあまり無かった。だが芥子は幼い頃に気分転換に料理をして以来ハマったらしく、よくイツ花の助手として台所に立つ姿を見掛けていたのだが……なのにどうして、今回はいないのだろうか。

不思議に思っていると、声を掛けたことで此方に気が付いたイツ花が手を止め駆け寄った。


「梔子様! どうなされたんですか?

お昼ならもう少しだけ待っていてくださいネ」

「いやいや、催促じゃねぇよ。ほら団子、墨の買い足しついでにいつもの茶屋で買って来た。昼飯後に皆でおやつとして食べようぜ」

「わーい! もしかしていつものお店のお団子ですか!? 私、あそのこお団子大好きなんですよ」

「おれも。じゃあそこの棚に団子置いておくから….って、そうだ話し逸れてた。

今日は芥子居ねぇの? 珍しい」


忘れそうになっていた疑問を思い返しつつ、梔子は風呂敷で包んだお団子を棚に置く。イツ花は忙しいのか、止めていた家事を再開しながら芥子について話し出した。


「芥子様ですか? 芥子様は書庫だと思いますよ~」

「書庫?」


百鬼家の屋敷の一角には、歴代の討伐記録や報告書、更には鬼や神等についてまとめた資料何かを保管する書庫がある。それなりに広い書庫にある資料たちの管理は、芥子や芥子の父が務めてくれている。有り難いことだ。


何か気になることでもあったのかと考えていると、ぽつり、イツ花が気になる発言を零した。


「今まで解放してきた、朱の首輪に縛られていた神について調べているんでしょうね。

そんなにあの話で思うことがあったのかしら….」

「あの話? なんのことだ?」

「いえいえ、ちょっと芥子様とお話しただけですよ」

「ふーん….、そっか」


昼食はもう少し、という言葉を最初に言った様に、イツ花はあと少しで出来るからなのか忙しなく完了へと近づけている。料理に集中しているせいか、会話はおざなりになり途切れてしまった。

これ以上この場に居ても邪魔になるだけ。梔子は芥子とイツ花の会話について考えを巡らせまがら、台所から去って行く。

 

 


神無月のある日のこと。ついに、梔子の好奇心は爆発した。


「妖怪書庫こもりはここかー!!」

「きゃああっ!? く、梔子!?

襖を音を立てて開けては駄目じゃない!! 痛むでしょう!!? 

それに大声を急に上げない!! 吃驚するからやめて頂戴!!」


その日、梔子は爆発した。必ず、かのコソコソ何かをしている芥子に事実を聞かねばならぬと決意した。梔子は気になったことを放置し続けることは出来ぬ。梔子は、刹那主義である。己の心に従って生き、積りに積もっていった疑問をそのままにして暮らしてはいけぬ……と言う訳で。

ここに挙げた例以外にも、芥子が考え込んでいたり樒やイツ花と真剣に話姿を何度も見ていたら、ついに本人に聞かないと気になってしょうがなくなってしまったのである。

それと時期的にも、芥子には聞かないといけないことがあるのだ。


家中を探し周り他の家族たちに聞き込みをして、芥子が書庫に居ると知った梔子は溢れる気持ちを抑えずに突撃をした。結果、逸る気持ちの犠牲となった襖と驚いた芥子に怒られたのだが。

しかし梔子は、伊達に相棒と共にしょっちゅう芥子に怒られ続けてきた訳では無い。ぷんすか怒られて一気に四連発で注意されようと、これくらいでへこたれりはしないのだ。けれども、一応驚かせたことと強く開けたことの反省はしている。それなりに。


「あ、ごめんな」

「全然反省しないんだから….! はあ……」

「ごめんなー襖、痛かったかー?」

「私に言うことは無いのかしら?」

「あるぜ、芥子もごめんな!!」

「本当に謝ってるつもりなのかしら、その笑顔は……」


誠意を込めて謝ると、芥子は疲れた様にため息を吐いた。本気で謝っているのに、何故かいつも芥子には伝わらない。これがどうやっても埋めることが出来ない溝というモノか….なんて適当な解釈をしながら、梔子はどかりと芥子の横に胡坐をかいて座る。

やはり何かしていたのか、芥子の手や周囲には様々な本や巻物が置かれていた。


隣に居座り出した梔子に対して、芥子は怪訝な顔になる。自分のことは気にするな、と言う気持ちを込めて手を振ると、彼女は再びため息を吐く。

そんなにため息を吐いていたら、幸せも一緒に逃げてしまいそうだ。芥子は手にしていた本を文机に置くと、いったい何の用なのかと梔子に問いただす。


「座ったということは長く居座るつもりなのね……いったい、私に何の用かしら」

「んーそうだな。簡単に言うと、心配と好奇心からの用事?」

「….は? どういうことなの?」


どうも何も、そのままの意味だ。ずっと何かを調べたり考えたりしていることへの心配と、何をしているかの気になる個人的な好奇心。その二つ。

そのまま本心を芥子に伝えると、芥子は湾曲的に言わず最初からそう言いなさいな。と適当なツッコミを梔子に投げた。確かにその通りである。


「もう、どうして梔子はいつも面倒な言いぐさをするの……」

「おれは普通に喋ってるだけだぜ?」

「梔子にとってはそうでしょうね….これはきっと、私と貴方の価値観の差異のせいね……」

「そんな疲れた顔すんなって。 

その辺はもう諦めろよ。ずっとおれ達はこんな感じなんだからさ、多分一生こうだぜ?」

「いや、いやよ。絶対に諦めないわ。

だってそうでないと、私と恒は一生ツッコミ疲れするってことじゃない!」

「ははっかもな。まあ……うん、頑張れ!」

「他人事じゃないわ、梔子当事者でしょう!? 良い笑顔浮かべてんじゃないわ……ってああもうそうじゃないわ! 

こんなを話するんじゃなくて、梔子は私が何しているか聞きにきたのでしょう!?」

「あ、そう言えばそうだった。いや~うっかりしてた」

「“うっかりしてた”! じゃないわよ…! 

はあ……」

「いやちゃんと気付いてたけど、話がノッてきたからさ。つい」


ごめんなと謝ると、芥子はもう疲れて来たと額に手を当てだした。このポーズやため息を、梔子は芥子や恒春にはよく取らせている自覚がある。そのことに対しほんの少しの反省の気持ちを覚えるが、生憎自分はこの性根を自分は気に入っているせいでなおしてやれそうに無い。

だが代わりに、二人が本当に嫌になる前にいつも必ず引くようにしている。それで許して欲しいと思っているが、これを言ったら最初からやめろと言われそうなので口に出したことは無かったりする。


額に当てていた手は、いつの間にか口元へ。この仕草は、芥子が考え事をする時によくやるものだ。きっと今彼女は、梔子に対してどう説明するかそれともどう誤魔化すかとでも考えているのだろう。


(出来れば本当のこと話して欲しいんだけどなあ。心配事や悔いを残して逝きたく無ぇし)


芥子が置いていた辺りの書物達の角度を全て揃えたりして待っていると、彼女が口元から手を離した。これは、芥子の中で結論が出た証だ。

彼女は大した悪戯じゃなく問題なしと見なしたのか、梔子の手元を一瞥すると問いの答えを口にした。


「適当にはぐらかそうかと思ったけれど….いいわ。

私が何をしていたかと言うと、そんなに大したことでは無いの。

……朱ノ首輪を手に入れる為、私が大江山に登る算段をしていただけよ」

「朱ノ首輪? それって、伽羅が危険だからって全部処分したあの首輪?

んで、芥子が登んの?」

「ええ」


梔子の疑問の声に頷いて是と返すと、芥子は先程梔子が整えた書物の一番上に置かれていた、朱ノ首輪についてまとめた資料を手に取った。


「どうしてあれを欲しているかと言うと、最悪な想定が正解だった場合に備えたの。

……あの首輪は確かに呪われていて、付けた者がただじゃ済まないのは、私も梔子も見た事があるから知っているでしょう?」

「まあな、ヤバそうだったのはちゃんと覚えてる」


最悪な想定とは、自分達の中で暗黙の了解となっている一番嫌な未来の結末のこと。だがそんなことよりも、今気になるのは首輪についてだ。


かつて、伽羅や山茶花の母の鹿子が存命時の討伐で手に入れた朱ノ首輪。おれ達で外して解放したあの烏の神は、忌々しそうにあの首輪を一瞥するや否やすぐさま天界へと帰って行った。

残された首輪は家へと持ち帰ったが、ずっと禍々しい何かを放っていた朱ノ首輪を、伽羅は即処分した。だから見れたのは少しの間だけ。だがそのほんの少しの間だけでも、あの強烈な印象は未だに記憶に残っている。


「当時伽羅と二人で調べた結果、あの首輪は凄まじい怨念と共に力が籠っていると分かったの。天界の使いのイツ花からも、朱ノ首輪は付けた者を呪うと同時に力を与えるという証言を取れたわ」


あの日の伽羅、部屋でゴキブリを見つけた瞬間の様に嫌な反応を首輪にしていたわ。なんて、芥子は思い出し笑いを浮かべながら語った。


「その証言を聞いて、伽羅はなお危険と見て処分したけど……最悪な展開になった時の為にも今は、あれが必要だと思うの。

もし、これからも戦わないとけないのなら。今まで通りを押し通せない瞬間が必ず来るでしょう。だから危険を冒してでも、力を得る手段はあるべきよ。

手段は多ければ多い程、一族の選択肢の幅を広げることが出来るのだから」


そこまで言うと芥子は口を閉ざし目を伏せた。すうっと小さく深呼吸をすると、彼女は梔子と再び視線を交え口を開く。


「どうして樒では無く私が行こうとしているのか、それにも正当な理由があるわ。

大江山で朱ノ首輪に縛られている神の解放条件が、“隊長が女であること”なの。

だから、男である樒では出来ないのよ」

「性別はどうしようも出来ねぇからなー」

「ええ、だから女である私が隊長に任命されたのよ。尽力を注いで、必ず神を解放して朱ノ首輪を手に入れてみせるわ」


拳を作り決意に満ちている芥子に、梔子は思わず苦笑いが溢れた。いつも家族のことを考えて心配してと、悩む役割に立つことが多い彼女が前向きなのは良いことなのだろう。だが兄心的には、張り切り過ぎて空回らないか心配になってしまうのが本音だ。


「気合充分な芥子は珍しいな。気合を入れるのはいいけど、あんまり気負いすぎんなよ?」

「大丈夫よ。もし何か起きたとしたら、一緒に行く梔子や恒や山茶花に相談するわ….っあ、梔子。今言ってしまったけれど、来月の討伐隊に参加して貰うわから」

「……….マジで?」

「まじで、よ。

ちなみに、来月私達が行くことの許可は既に樒に取っているわ。今日の夜にでも、樒から皆に伝える予定だったのよ?」


あっけらかんと落とされた言葉に、梔子の思考処理速度が落ちた。今目の前に居る存在は何言ったか。とうばつ….トウバツとは何だったか….TOUBATU……討伐? それはあれか、出陣して鬼を退治しに行くあの行為のことか……? ここまで理解するのに、約10秒程掛かってしまった。


どうにか再起動して、討伐に自分が行けると呑み込めた次の瞬間。喜色満面となった梔子は、戦いに行ける嬉しさのあまりその場を跳び上がった。


「マジかすっげぇ嬉しい!! 本当に最高だ!!

いやー年的にそろそろおれ隠居だろーなー戦いに行けないの残念だよなーとか最近思ってたからさあ!! ほんっとうに嬉しい!! ありがとな芥子!!」


周りの書物に当たらない様に気を付けながら、その場で小さく何度も何度も跳び上がって喜びを表現する。してもいいなら今すぐ家族全員に言いふらし周りたい程に、梔子は嬉しくて堪らなった。


どうしてこんなにも討伐に行けることに喜んでいるのか。それは、梔子が恒春とは別種の戦い好きだからだ。

色々と又聞きで話を聞いた感じでは、弟は鬼を殺すことに愉悦を覚えるタイプの様だ。しかし自分は、殺すと興奮してテンションが上がるタイプだ。この二つは微妙に違うから一緒にしてはいけない。ちなみに余談だが、伽羅も自分と同じタイプだった。そういうところが一致していたから、自分達は気が合ったのだろうと今なら思う。


供述の通り、梔子はもういい年だ。祖父も叔父たちも、今の梔子と同じ一歳七ヶ月には死んでいる。自分的にはまだまだ元気だが、幼い家族を押し退けて寿命間近そうな己がまた戦えるとは思ってもいなかった。そんな訳もあって、梔子はこんなにも喜んでいるのである。


「はー……~~~あーもうッ! 梔子! 

嬉しいのは分かったからいい加減大人しくしなさい! 貴方が飛び跳ねる振動で本が揺れてるでしょう!」

「お….っと、それはヤベェな。ごめん!」

「本当に落ち着きが無いのだから……はあ」


芥子はため息交じりに、梔子のせいで少しズレた本を元の位置に戻す。両手を合わせて書庫の主に謝ると、梔子は同じように本を戻す作業を手伝った。

二人で協力して戻したからか、ズレて危うそうになっていた本たちは直ぐ元の位置に。芥子が満足そうに並べた本を眺めているのを見ていると、梔子はふと脳裏をよぎった疑問を口にした。


「芥子隊長しっつもーん」

「まだ十月だから隊長では無いのだけど….何かしら?」

「戦えるのはすっっっげぇ嬉しいぜ? けど最悪なもしもを考えんならさあ、成長の余地や未来の猶予がそう無いおれよりも澄や芹とかを連れて行ったがよくねぇ?

合理的に考えてさ」


討伐が嫌で言っている訳では無いからな。と注釈を付け加えて、芥子に尋ねる。戦えるのは心の底から嬉しい。だがしかし、今が楽しければそれでいいと思っている自分でも、己が行くのは非合理だと理解出来る。

それなのにどうして、芥子は連れて行こうとしているのか。どうして樒は許可をしたのだろうか。生憎梔子は、その辺の事情を察するのは得意では無い。というか、深く考えるのが苦手なのだ。ノリで自分を討伐隊に入れたんじゃね? 等と適当な結論ですぐに終わらせたくなってしまう。


芥子は何てことも無さそうに、寧ろそんなことかとでも言いたげな飽きれ混じりの声で、理由は三つあるとを指を一本ずつ立てながら教えてくれた。


「簡単な理由よ。一つ、梔子が未だ衰えず強いから。二つ、大江山の敵が私達で敵わない位とても強かった場合、捨て駒にするのは年老いた者から順にする方が効率が良いから。だからもしもの場合、まだ変わりがいない山茶花を私達三人で守って下山するわよ。

……そして最後に、三つ」


三本目の指を勿体ぶった態度でゆっくりと立てると、芥子は悪戯っぽく小さく笑った。……血が繋がっているからだろうか。その笑顔は、何処となくおれ達に似ていた。


「私が、この四人で行きたいの。正直言うと、三つ目が一番重要な理由よ」

「……マジで?」

「まじ、よ」


ついさっき似たような会話をした気しかしない。想定外過ぎる理由に口を開けて驚いていると、芥子はしたり顔で可笑しそうに笑い出した。

いや楽しそうなのは良いことだが、予想外過ぎてこっちは口が塞がらないのだが。


「ふふ、こんなに驚いた梔子は初めてみたわ。

いつもとは正反対の立ち位置になっているわね、ああ可笑しい!」

「いやー….これは仕方無くね?

我が家の参謀ポジな芥子がワガママで決めるとかさあ、珍し過ぎんだろ。

一体どういう風の吹き回しだ?」


驚きを紛らわせる為に、胡坐をかいて座っていた姿勢を変えてみる。両足の裏をぴたりと合わせ、その足を両手で掴んでぐらぐらと揺れ動く。周囲の書物にぶつからない様に慎重に動くのは、自分に少しの緊張感を与えてくれて気分転換に良さそうだ。


口元を抑えて笑っていた芥子は、その手を徐々に降ろして胸元でぎゅっと握りしめる。楽しそうだった表情は一変し、見慣れた眉間の皺が表れる。これは、悩んだり困ったりした時に芥子に浮かぶものだ。


「別に、大したことでは無いのよ? 

……樒は、澄達を連れて必ず朱点を討ち果たすでしょう。あの子達ならきっとやってくれるわ。だけど、だからって、あの子達に全てを背負わせたくないの。

ほんの少しでも、露払いだけでいい。親として、年長者として、子供達ばかりに背負わせたくないのよ……!」


揺れ動くのを止めて、梔子は静かに芥子の思いを聞く。思いをぶちまける妹は、相変わらず家族想いで心配性な様だ。


「だから私は、樒よりも年上の私達四人で行きたいと考えたのよ。

….まだ幼い恒春や山茶花、それに梔子までも巻き込んで勝手に決めたのは……….自分勝手だと、自覚しているわ。それでも、行くならこの四人で行きたいと思ってしまったの。ごめんなさい….」


尻すぼみになり、ついに芥子は黙り込んでしまった。全く、この妹はつい先程の兄の喜び様を忘れたのだろうか。恒春や山茶花が反対するとでも思っているのだろうか。


(全くしょうがないなー芥子は。おれの満ちに満ちてる自信を分け与えてやりたい位の自信の無さだ)


梔子は腰を上げて、沈み込んでこちらに気付かない芥子に一歩歩み寄る。そして思いっきり、彼女の短い髪の毛をくしゃくしゃに撫でまわした。


「っぇ!? きゃ、ちょ、ちょっと梔子!?」

「おーしよしよし、芥子は頭は良いけどバカなところあるよなーよしよし」

「はっはあ!? 何でバカにされないといけないの!! やめなさい! 髪が….!!」

「お前さ、自分に自信無さすぎ。もっと自信持っていいと思うぜ?

家族のことを思って決めた討伐を、おれ達が断るとでも思ってんのか?

現におれ喜んだじゃん、討伐隊に入ったこと。芥子は自分を信じることと、周りをもっと信じる様にしような~~~」


梔子の言い分を聞いて、芥子は髪を撫でる手を止めようとする手をぴたりと停止する。


「……ちゃんと信じているわよ」

「おれから見ると、芥子はもっと信じていいと思うんだよ。心配になるレベルで思ってるからなー?」

「………….」


最後にぽんと一度頭を撫でて、梔子は座り直す。芥子はぼさぼさになった髪を梳きながらも、何処か上の空だった。


(これを機に少しで良いから改善してくれたなら……まあ、うん。なるように為ればいっか。芥子は頭良いんだし、大丈夫だろ)


何とかなるだろう。これ以上考えてもどうしようも無いので、梔子はそこで思考を切り替えることにした。ちらりと芥子を見るやと、まだ梔子の言葉について考えているのか、どこかぼんやりと己の手を見ている。


考えてくれるのは嬉しい。が、それよりも。

無視したままではいられない話題について、己も大江山に行けるのならなおのこと、梔子は自分の次に年長者な芥子に聞きたいことがあるのだ。


ぼうっとしている彼女に気付かれない様、静かに右手と左手を鎖骨前辺りに掲げると、梔子は勢いよく手を合わせた。


「けー….しっ!」

「っ!? な、何かしら、驚いたじゃない….」


ぱん、と大きく響いた音に、芥子は肩をびくりと上げて驚きを露わにする。

梔子は思考の海から彼女が戻ってきたのを認識すると、ちょっといいかと口にした。


「いいけれど….もっと穏便に呼んで欲しかったわ」

「あはは、いやーごめんな? 次から気を付ける。

んで、芥子に聞きたいことがあってさ」

「聞きたいこと?」

「そう、聞きたいこと」


彼女の言葉にオウム返しをしつつ、梔子は周囲に注意を向ける。

唯一の出入り口である襖の外にも、部屋の中にも、自分達以外の気配は無い。誰かが近づいている様な音も聞こえない。念の為立ち上がって襖の外を見てみるが、やはり誰も居ない。


その事実を確認し終えて芥子の前に座ると、彼女は一体何がしたいのだと胡乱な目を梔子に向けていた。


「梔子、貴方何しているの?」

「念の為の確認〜。そんなことよりもさあ、芥子」

「もう、何?」


今生きている自分達も、死んで逝った家族達も、誰もが無視してきたことがある。今まではそれでも良かった、首魁の膝元に辿り付ける算段すら立てられなかったから。だけど自分達は、来月大江山に行く。もしかしたら、自分も当事者になり得るかも知れないのだ。

それならもう、見ないふりは出来ない。だからせめて、年寄りくらいは嫌な現実と先に向き合っておくべきだ。もしもの時に、年長者が一番取り乱していたらカッコ悪い。そんなのは無様を晒すのは性に合わない。


「芥子はさあ、どっちだと思う?

 

朱天童子を倒したら天界の言う通り呪いが解けるか……それとも、最悪の想定通りにになるか」

「それ、は……」


百鬼一族は、基本的に天界の言葉を疑っている。いつから、誰からそう考える様になっていたのかは梔子は知らない。だが家族の大体は、純粋に天界の言葉は信じていない……と、思う。はっきりと全員にどうなのか聞いたことが無い、だから詳細は不明だ。


(おれだけだったら解けるかどうかなんてどうでもいいけど、こいつ等が泣いたり悲しんだりすんのは嫌だからなー。だからおれ個人としては、どっちかと言うと解けて欲しい派….みたいな?)


胡坐の右足に肘をつき、芥子の顔を覗き込む。自分の次に年長者な芥子にも、もしの場合取り乱されたら大変なので聞いてみたが….さて、何と答えてくれるだろうか。

梔子の言葉に、情けない顔をしていた彼女の表情は遣るせないものへと変わり、膝上に置いていた資料を持つ手に力がこもる。


「そんなこと、……そんなこと、聞かないで。勿論、解けて欲しいとは思っているわよ?

だけど純粋に信じ切れる程……私は、素直じゃないの。ないのよ」


芥子は徐々に言葉尻が弱まり、強く自身の着物の袖を掴んだ。

……信じ切ってしまいたいのだろう。その気持ちは理解出来る。巨悪を倒したら全てが解決して幸せな終わりが来る、めでたしめでたし。なんてイイ話なのか、この世の全てが拍手を寄越すに違いない。


だけど百鬼の血が、遺して逝った祖先達の言葉が、そんな風に信じさせてはくれなかった。

信じるとはなにを? 誰を? ……天界を。初代をこの地に遣わした神々を。


俯いている芥子はきっと、脳内で信じたい気持ちVS信じれない本心とで葛藤でもしているのだろう。ここに居るのが自分では無く、恒春や山茶花達ならそっと芥子の心に寄り添った筈だ。しかし、今彼女の前に居るのは自分だけ。生憎なことに、梔子は湿った空気が苦手だ。だがこのままでは芥子ずっと暗い顔……それは困る。し、家族が悲しい顔しているのは嫌だ。


(よーし、芥子の意識をこの話から逸らすか。

あまりに検討違いな話題転換したらあからさま過ぎるし〜、どうすっかなー……)


下を向いて芥子が気付かないことをいいことに、梔子は左右にゆらゆらと揺れてマイペースに話のネタを考える。今この場を誰か見たら、傍はどんよりと重い空気を放ち、傍はのんきに揺れている光景に微妙な顔をすることだろう。そうなることに、梔子は今日の夕飯の煮魚を賭けてもいいと思った。


んんんと唸って知恵を絞った結果、突如梔子の頭に妙案が浮かぶ。

これなら問題ない。ついでに、自分が若干疑問に感じていたことが分かるかも知れない。良い手札を引けたことに浮かれた気分になりながら、梔子は芥子の意識を引き上がらせる為に声を掛ける。


「おーい芥子、気になることがあるんだけどさー」

「….っへ? あ、なにかしら」


思考の海を泳いでいたからか、芥子は梔子の呼びかけに少し遅れて返事をした。


「おれ達の宿願が叶うかどうか、それが間近に迫ったからこそ知りたいことがあって」


軽い世間話をする要領で、梔子は謎に思っていたことをすらすらと適当に述べてみせる。とはいっても、内容は世間話とは程遠い物だが。


「そもそもさ、我が家は何で天界の言葉を疑う奴が多いんだ?

確かに天界の言葉が旨すぎて訝しむのは分かるけど….でもおれらがそう思えるのは、先におれ等の親達が疑っていたからっつー土壌があったからだろ? 

じゃあ何で……何で、母さん達はそう思う様になったんだ….?」


自分で疑問を口にしていくに連れて、今まで詳しく考えていなかった疑問が殊更に深まっていったのが分かる。

覚えている限り、母も兄も姉も全幅の信頼を向けていなかった。全員、何かしら天界へ思うことがある様な口振りをしていた記憶がある。


梔子の言葉を聞いた芥子は、悩む素振りを止めて静かにその場から立ち上がる。急に立った芥子を不思議に見ていると、彼女は書庫の奥へと姿を晦ましたかと思いきや、直ぐに何かを手にして元の場所へ座り直す。

芥子が持ってきた物に目をやると、それは青とも緑ともどちらとも言える色をした背表紙の綴じ本だった。


「それは?」

「……初代の日記よ」

「じいさんの?」

「ええ」


裏返し最後の頁を開き、芥子は端の方に書かれていた初代の名前を指差す。名の隣には“一〇一八年四月〜”と書かれている。今から三年前と言うと、確か初代が京に降り立った年だと梔子は記憶している。本当にこの本が、初代の日記なのだろうか……?

物珍しげに熱視線を日記に送っていると、芥子が梔子に本を手渡した。


「梔子の欲しい答えは、この日記を読めばあるわ。開き癖が強く付いている頁達だけでも良いから、読んでみて」

「ああ、分かった。貸してくれ」


日記を受け取ると、梔子はぱらぱらと最初の頁から軽く流し読みをしていく。日記と言うには、書かれている頁数が少ない様に見受けられる。最後の日付けは一〇一八年七月で、どう考えても祖父が死んだ冬の日付けよりも早過ぎる。途中で日記を書くことに飽きたのだろうか?

不思議に思えど、梔子は一先ず読んでみることにした。勿論、癖が強くついている頁はは入念に。


『一〇一八年四月○○日

天界ではしていなかったが、地上に戻った記念に日記を付けようと思う。

太照天夕子様のお導きで、俺は京の都へ戻ってきた。

今日から俺は直接会うのは初めてな俺の娘と、天界からお手伝いとして使わされたイツ花の三人でこの家で暮らす。上手くやっていけるか……少し不安だ。

だが、俺は死にたく無い。二年も生きられなくとも、二人と協力して必ずこの呪いを解いてみせる。』


『一〇一八年五月○×日

一ヶ月どれだけ探しても、父や母の血族を見つけることは出来なかった。太照天夕子様は“朱点童子は一族の復讐を恐れて”と言っていた。だから父や母の親族も俺と同じで、両親の復讐を考えているのかと思っていたが……京の住人達に聞き込みした限りでは、父の親族はみな亡くなるか、とっくの前にこの地を去ったらしい。母の方は残念ながら全く分からなかった。……恐らく、父と同じだろう。

助力を得られれば何て、そう世の中は甘く無いようだ。だが大丈夫、俺は一人では無い。イツ花が居て、伊予が居る。彼女達がいるから、立っていられる。本当に感謝しか無い。太照天夕子様のお言葉通り、“いつの日か必ず朱点童子を討ち果たす”。その為に、小さくても一歩一歩きちんと歩んで行こう』


最初の方に書かれていたことは、娘の伊予のことや迷宮の鬼、京での生活について等。特に目についた頁は、最初の頁と五月の親族に言及した箇所くらいだろう。


祖父はこの時点では、自分達で呪いを解くつもりだった様だ。三世代、いや四世代経た今でも解けていない現実を生きる梔子としては、素直に哀れみを覚えてしまう。

そしてもう一つ気になった五月の頁、曽祖父母の親族について。居ないのが当然だったせいで梔子は何も思っていなかったが、確かに生まれてこの方、呪われた一族以外の百鬼の名を持つ親族と会ったことが無い。


(身内から朱点童子の膝元まで行けた人間が出た結果、鬼に狙われ易くなって殺されまくったとか? んで、生き残った親族は遠くへ逃げた……そんな所な気がするな)


この推測はあながち間違っていないだろう、そんな不確かな確信を覚えながらも、梔子はぱらぱらと次の頁を捲った。


『一〇一八年六月××日

勇者の子だなんて持ち上げられても、所詮子は子であって勇者では無い。神の血を引く伊予と違い、俺はただの人間だ。迷宮手前の鬼で手こずっている様な今の俺達では、朱点童子は夢のまた夢だ。

……あの神様達は、どうして俺に手を差し伸べてくれたのだろか。幾ら両親が強かったとしても、子の俺は二年と生きられず父達の様に強くなるとは限らない。それに、そこらの木っ端鬼に振り回されていると言うのに。いや、こんなことを考えるのはやめよう。あの方達は俺を助けてくれた。その恩に報いよう。

話がズレてしまった。だから俺は、今月再び交神することにした。神の血を引く子が増えれば、討伐も少しは余裕を持てるだろう。それに家族が増えたら、家はもっと賑やかになる筈だ。そうなったら、俺は嬉しい』


どうやらこの辺りから、祖父は天界の施しに疑問を持つ様になったらしい。自分も母や兄達に聞いたことがあるが、祖父や母達が現役の頃は、迷宮の最初に出てくる鬼にすら手こずっていたと。今では最奥の大将すら倒せる自分達からしたら、にわかに想像し難いことだ。

だが、祖父達は本当に苦戦していたのだろう。だからこそ、そんな自分に手を差し伸べた天界の神々に疑問を抱いた。


恩には報いたい、強く功績を残した両親と弱い子供の自分、家族が増えることを純粋に喜んでそうな感性……母や兄達から、祖父は無表情で喜怒哀楽を出す変わった人だと聞いていた。だがこの日記を読む感じ、何というか、


「……じいさんって」

「?」

「思ってたより普通の人だったんだな。文章だけで、じいさんの最大の特徴だった表情が無いせいか?」

「そうかも知れないし、もしかしたら本当にただの人だったからかも知れないわ。私達は会ったことが無いから、実際のところは分からないわね。でも、私も初代は普通の人だったと思う。……だからこそ、苦悩したのでしょうね」


苦笑いをこぼして、芥子は額の呪いの証を触る。ついつられて、何となく梔子も額の証を撫でた。もう直ぐこれが無くなるかも知れないと思うと、色々と思い返してしまうものだ。


日光を額の玉で反射させて紙を燃やせるか実験したあの日、出来物と勘違いして寝ている間に引っ掻いて血が出たあの日、冬に額の玉が冷え過ぎて周りの皮膚の血色が悪くなったあの日……面白かったことばかり記憶する性質なせいか、ふざけたことしか思い出せない。こういう時、自分はシリアスな空気が合わないなとほとほと実感してしまう。


閑話休題。気を取り直して、力を込めて開いて握り締めでもしたのか、一番ボロボロになった最後の頁を、梔子は開き見た。


『一〇一八年七月×○○日

俺はなんだ。あの子はなんだ。鬼に負けるならまだいい。しかし人間に負け、父を知る者共から失望の視線を受けるのは堪える。なぜ、何故、なぜなんだ?

本当に俺は両親の子供なのか。あの子は神の子なのか。いや、しかし。こんな額に玉を付けた人間の偽物を作る必要は無いだろう。神々は俺で遊んでいるのか?  いいや、神がそんなことをする筈が無い。あの方達は俺を救って下さった本当に? 本当に俺は善意で救われたのか? 確かに俺は天に居た。アレ等が異形のモノであるのは真実だ。じゃあなんで娘は、伊予は、何で人間に負けた。俺が一緒だったからか。弱い俺が足を引っ張ったからか。

分からない、分からない、何も分からない!  俺が倒れたせいで負けたのに、俺は娘を疑ってしまった。俺を遣わした神々に不信感を持ってしまった。俺に失望する京の人間に絶望してしまった。

誰でもいい、教えてくれ。俺は、俺は何なんだ。ああ、ああそうだ本当は分かっていた知っていた理解していた!!!


こんなに弱い俺では朱点童子は倒せない!!呪いを解くことは出来ない!!!  あの神はいつの日か倒せと言った、それは俺で無くても良いということだ!!! それなのに期待されていると思って必死になって!!  愚かとしか言いようが無い!!! 俺は期待なんてされていなかったんだ!!!!』


……中々に情熱的で、読むのに気力がいる内容だった。見開いた頁の全てを読み終えると、一旦顔を上げて深呼吸をした。何となく気分で伊達眼鏡をかけ直し、梔子は件の頁をしげしげと観察してみる。

強い力で日記を掴んだのか、開かれた頁の左端が爪でくしゃくしゃにした痕が残っている。相当気持ちを込めてしたのだろう、掻いた痕に血が滲んでいて痛々しい。


人伝てに聞いていた祖父の形が、ばらばらと崩れていく音が聞こえた。祖父は、耐え切れなかった。弱い人だったのだ。


(これのどこが子供大好き~家族大好き~な、愉快なじいさんだよ。表情筋が仕事しない人だったせいで、表にはこの内心を一切出さなかったとか? だとしても違い過ぎだろ)


気を取り直し、梔子は次の頁を開きまた日記へと向き直る。前の頁を書いた時から少し時間が経ったのか、頁の最後の方は投げやりに書かれていた祖父の筆跡が、最初の数ヶ月と同じ落ち着いた筆使いへと変化している。


『──────伊予が、泣いていた。自分が弱いせいで俺に怪我を負わせてしまった、自分が役に立たなかったから俺が周囲からなじられた、ごめんなさい、ごめんなさい……と。


あんな馬鹿なことを書いてしまったが、本当はちゃんと分かっているんだ。伊予は何者でもない、俺の子だ。俺の娘だ。ああそうだ、そうだった。あの子は、俺を父として見てくれている。俺を認識してくれている。俺を、見ている。


もういい、もう、いいや。もう、その事実だけあれば、それで良い。生きることも、期待に応えることも、俺には無理だ。受け入れよう。認めよう。身の丈にあったことをしよう。だから俺は、大人しくいつかに向けての祖となろう。その代わり、父としての立場だけは誰も脅かさないでくれ。お願いだ。お願いします。神様。

こんな惨めな俺を慕ってくれる娘が居るんだ。あの子の親愛に応えたいんだ。大人しく死にます、だから、父親を張らせて下さい。父親の立場でいたい。縋りたい。ああ、ああ伊予。こんな弱い父ですまない。来月くる子供も、こんな醜い父ですまない。それでも、お前達の親で居させてくれ。幾千幾万居る生物の中から、俺の子として産まれてくれたんだ。精一杯、愛させてくれ。

俺を、 見 て 』 


泣きながら書いたのか、頁の端がふやけて読み辛かった。全て読み終えた梔子は、日記を閉じて大きく息を吐いた。それはまるで、どっと押し寄せた負の念を全て吐き飛ばすが如く。


「はーーーー……じいさんこれもしかして壊れた? それとも狂ったか?」

「この日記を私に継いだ父は、祖父は傷付いて弱った果てにちょっと頭のネジが数本飛んでいったんだろうと言っていたわ」


ちょっと飛んだ位じゃなくね? と思いはしたものの、既にいない芥子の父である延珠に言葉が届く訳でも無い。梔子は喉元まで出てきたその言葉をぐっと飲み込んだ。


色々と思うことはあれど、確かにこの日記には梔子の疑問の答えが載っていた。つまり始まりである祖父が天界の神々に不信感を持ったから、母達も疑念を抱く様になったのだ。と言っても、祖父は不信を抱きつつも神頼みを書いてしまう程不安定なことがあったようだが。大丈夫かこの祖父。いやもう過去の人だが。


「でもま、何で母さん達が天界を疑っていたかは理解出来たぜ。じいさんがお上を何だこいつーって思ったから、母さん達もそう思う様になったんだな」

「ええ。父が存命時に私から聞いたことがあるけど、梔子の言う通りだったわ」

「当たっても何も嬉しくねーーーーよ」


面白くないと言いたげに、梔子は唇を尖らせた。


「言ったら何だが……じいさんが偉い神に望まれたことは、いつかに向けて種馬になることだった。って捉えることが出来るよなあ」

「種馬って……梔子、言い方」


言い様が引っかかったのか、芥子はしかめっ面になる。梔子はおどける様に肩を竦め、悪い悪いとさして悪く思ってもいない薄っぺらな謝罪を述べて話を逸らす。


「最初に注意は言っただろ? ごめんって。

この日記に書かれていることが事実なら、神はじいさんを持ち上げたけど、じいさん自身に朱点童子を倒すことは期待してなかったかも知れないんだよな?“いつか”

と、その事実を湾曲にしか言ってなかった……」

「祖父の勘違いの可能性もあるわ。日記を書いた時の祖父、凄く混乱していたみたいだもの」

「そーーだけどさーーーぁ」

「? 何が言いたいのよ」


訝しく己を見てくる芥子に、梔子は胡座を掻いた足に肘を付いてつまらなそうに言葉を吐いた


「そんな考えをするお偉いサマなら、朱点童子を倒したからってはいそうですかおめでとう解けました! って解けるのかと思えちまうよなあ。信頼し難いって感じ?」

「話が戻ってきたわね……」

「これ読んだらなおのこと思えたんだよ。じいさんを導いた神々は、いけすかない匂いがする。おれの直感が言ってる」

「どんな匂いなのよ、と言うか勘で匂えるってどういうことなの?」

「そこはあれだ、ほらあれ……察しろ!」

「梔子……感覚的ものは分かりやすく説明してくれないと、こっちは全く伝わらないわよ」


はあ、と大きくため息を吐いて芥子は眉間を揉んだ。そう困った風に言われても、生憎言葉で説明出来る様なものでは無いから察しろとしか此方は言えないのだ。


梔子の言葉に対し、何度も最悪な展開を否定する様な物言い……やはり彼女は。


「やっぱり、芥子は信じたい派?」

「……そう、ね。私は神の言葉を信じたい。

だって、そうであった方が良いじゃない。梔子も私も皆も、もう戦わなくて良くなるのよ?」


へにょりと眉を下げ、芥子は思うことがあっても、それでも信じたいと口にした。

その気持ちは、とても理解出来るものだ。


(おれだってめでたしめでたしが良い。でもなあ…………)


優しい妹は、戦うことが好きでは無い。それもあって信じたいのかも知れない。

……頭が回るせいもあってマイナス思考になりやすい芥子が、それでも信じたいと言っているのだ。ならば、その思いは尊重するべきではないのだろうか?


梔子は己の中でそう結論を出すと、芥子に向けて両手を上げて見せた。降参だと言うように。


「なあに、その両手」

「こーさんって意味だよ。芥子のその気持ちを歪めることとかしたく無ぇからな。

てかおれ達二人がもしもを一応認識してるんだし、もうこの話はお終いでいいかーってポーズも含めてる」


そう、そもそも梔子が芥子に尋ねた理由はもしもの時に年長の自分達が取り乱さない様、認識させることが目的だったのだ。だから、芥子の気持ちをねじ負けるのは筋が違う。


(どっちも疑う派だとバランス悪いし、これでいっか)


手に持っている祖父の日記を弄びながら、一応議題達成出来たことで梔子はやりきった様な気持ちになる。一月分位の真剣さを出した気分だ。


「はー何か沢山話して疲れた」

「疲れたは私の台詞だと思うのだけれど。突然やって来られて弾丸の如く話掛けられて……はぁ」

「おっ芥子も疲れたとは奇遇だな!

じゃあ気分転換でもしようぜ! あ、そうだ折角だし恒春達に来月の出陣について話に行こう! 絶対喜ぶから!」

「私はまだ調べ物が「ずっと座ってて身体が硬くなった気がする……走って探しに行くか!」ちょっと、人の話を聞きなさい!」


芥子が何か言っているが、この声色はまだそこまで怒っていない時の声だ。梔子は聞こえない振りをして、日記を横に置いて正面にあった自分よりも華奢な腕を掴んで立ち上がった。


「え、っえ、今度は何よ!?」

「思い立ったが吉日……だっけ。そう言うことだ、行くぞ!」

「ちょっと待っきゃあッ!!?」


上手く周囲の棚にぶつからない様に注意しながら、梔子は芥子を連れて書庫を飛び出した。やっぱり自分は、後のことを考えて何かするよりも、こうやって今楽しいことを全力でする方が好きだ。


後ろで足をもたつかせている芥子が転ばないか目配りをしつつ、梔子は恒春と山茶花を探す為に廊下を走り抜ける。ああ、走って目の前に現れたら二人はどんな反応をするだろうか。想像するだけでも面白くってしょうがない!

 

 

1021年 10月 九重楼


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リアルも10月ですね。来月はいよいよ大江山、今月は若手のパワーアップに専念しようと思います。

 

まずは先月の梔子先生との訓練結果からいきます、こちら!

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どーん。全体的に良い方なのでは?地味に心で火が一番高いのは先生の影響な気が。

どこもそつなく伸ばしている感じですね

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今月の指導はお母上である芥子にして貰います。親子で同じ壊し屋なので芥子が教えたいことが沢山ありそうですね!

 

芹「今月はよろしくね、母上」

芥子「こちらこそ。息子だからって甘やかさないわよ?」

芹「わあ、怖いなあ」ニコニコ

芥子(言葉と表情があってないわ….)

 

お次は最近高齢×、じゃなくて恒例○、の梔子の健康度チェックです

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この子めっちゃ元気だ….(素直な感想) 

これは一歳九ヶ月までは確定と見ていいですよね….?今までの百鬼家男子は今までも三人居ましたが、皆一歳八ヶ月未満で亡くなりました。梔子は男子最長寿命を更新ですね!

今月は若手達のレべリングなので、梔子は家でゆっくしててくれ~
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じゃん。こちらが今回の討伐メンバーです。上から六ヶ月、十一ヶ月、九ヶ月、四ヶ月と見事に一歳未満ですね。
今月はこのメンバーで討伐、出来たら大ボス撃破&樒の奥義試し打ちもやりたい所存….
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宗教部門についでとばかりに投資したら、次はいよいよ討伐です。

それでは、当主サマ ご出陣!
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何処に行くのかは既に決めています。九重楼です。ここには大江山越え前の朱点童子よりも強いと評判の太刀風=ゴローサンと雷電=ゴローサンがいらっしゃいます。ですが彼らは横一列に並んでいるので、列攻撃には弱い筈。樒の奥義、双光樒斬は前列全員に当たる奥義なので大江山前に試してみるのにも良さそうですね
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赤い火きた!!久しぶりにきた気がする。二つ目にあるのでどこまで持つかは分かりませんが、とりあえず設定をどっぷりに変えて….
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これでよし!序盤の敵は無視してひとまず七天斎様の居る場まで走ります
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速瀬をかけてもうダッシュしてたのですが赤い火突入….せめて九重楼に入るまでは持ってほしい;;;
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これは急ぎ過ぎて敵とぶつかった時のスクショ。澄ちゃんレベルアップおめでとう!!彼女心風が一番低くて上がりにくいんですよね、融通利きにくいタイプでもあるのかな?
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なんとか赤い火のうちに八起苑に到着….!良かった
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七天斎様には申し訳ないですが、こっちは急いでいるので早く戦いましょう!
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拳武器三つでとまりました。全部持っているので、この三つは換金してお金にしましょう
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まだ一度も奥義を使ったことが無いから試してみたいんですよね……双光樒斬は消費健康度が少ないので、気軽に使いやすいところが良いですよね
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確か378ダメージだったはず。バフ無しでもやっぱり奥義は強いですね
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僅かに残ったおじさんの体力はお姉ちゃんに削って貰ってフィニッシュ!f:id:kalino_suke:20191015155058j:image

奉納点ありがとう……(拝む)
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澄ちゃんまたしてもレベルアップ!蓮美様の子故に心は水が高いですね。体は火が一番高いから物理攻撃力がもっともっと強くなっていきそうです。

 

それでは、倒せましたし中に入って行きます!
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皆のレベルアップ記録&最後にお乳母ゲット!

全員一度は成長したのですが、遂に女性陣が男性陣二人と体力にかなりの差をつけてきました。この画像では皆少しずつ体力が削れているせいで分かりにくいですが、それでも上の樒達よりも体力が多いのが分かりますね….
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鏡進言があったのでつい撮ったもの。澄ちゃんは山茶花に鏡を向けるのかー、年の近いお姉さんなのもあって憧れの対象なのかな?
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炎が一つになったので、ついに太刀風様たちに挑みに行こうと思います。レベルもかなり上がりましたし、下手な真似さえしなければいける筈….!
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四人の現在のステータスと挑む陣形がこちら。陣形はそのままですね!樒と山茶花の二人が堅いので彼等を前に、恒春達は後列から攻撃して貰います。

それにしても澄ちゃんはこの感じだと体力500いけるじゃないかな?樒もそろそろ400代に乗りそうですし、これくらい体力があるなら朱天童子戦に行ったとしても一撃で死ぬ事は無いでしょう……

 

ですが今は先のことよりも目の前の大ボスです、五郎様たちの元へ突入します!
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百鬼一族では初めましてな太刀風さんたち。今日はよろしくお願いします
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樒「悪いがこっちが分かるように話してくれ、ほぼ意味が分からなかった」

恒春「よく分かんないけど、またオレ達一族は天界の何かに利用されてるってことじゃない?」

澄「また、じゃなくて、元から勇者として使命を受けてることを言ってるんじゃないかな。

確かひいおじいちゃんがそんな感じのことを言われたんだよね?」

山茶花「ううん……それは気になるわ。でもみんな、まずは戦いに集中しよう?二柱が困ってるわ」

「「「ああ/はーい/うん」」」

 

太刀風五郎(自由だなァ、こいつら)

 

澄ちゃん以外は大ボス戦を一度は経験していますし、最初ほど肩肘を張らずにいてそう。恒春も春菜様との触れ合いで変わってきているので、今回は前よりも余裕があると思います。初めての澄ちゃんも落ちつけているのは、きっと周りがどっしりと構えているからでしょうね。

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ドーピング薬はありがたい!絶対にゲットします
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初手は恒春から。一番手にどちらかを攻撃しようとしているのは、この戦いを楽しむ為の小手調べのつもりなのかな?

そこも気になりますが、それよりも鏡。鏡ですよ恒春くん

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こちらは先程の澄ちゃんの鏡進言

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どうしてみんな樒には向けてあげないん?

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澄ちゃんは対抗心から、恒春は兄としてのプライドからでしょうね。妹は色々呑み込んでまだ良いけど、同性の弟に向けるのはプライドが許さない。みたいな?

 

さて話変わって今回の作戦ですが、今回は樒に攻撃バフを積んで奥義で決めて貰おう作戦です。

作戦名がそのまんまなのはスルーでお願いします。もしバフを積み終えた状態で奥義を決める前に他のメンバーに出番が回ってきたら、その時は鏡で写して次に備えます。確実に奥義だけで決めれるかは分からないので、無理だった場合は攻撃力を写した子も攻撃して貰います。

 

これだけ体力があれば竜巻や落雷がきても直ぐには落ちないはず、です。なるべく早く攻撃力を上げて、五郎さんたちを迅速に討ち果たします!

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まずは恒春。この中で唯一萌子が使える彼には萌子を

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77アップ!いい上がり具合です

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お次は澄ちゃん。澄ちゃんは樒に軽い対抗心を持っていますが、TPOはきちんと弁えられる子。武人を樒に!
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雷電五郎さんの攻撃が樒に!しかし彼は堅かった!!この時何故か腹筋で攻撃を受け止める樒が脳内に浮かんだプレイヤー。駄目ですね、私の頭の中がギャグ一色です。

きっと脳内と違ってゲームでは樒が薙刀でいなして頬を掠ったとかでしょう!
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ここでやっかいな竜巻攻撃が……!
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陽炎もなにもしていないので全員竜巻攻撃の餌食に。耐えてくれ……!!

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先に雷電五郎さんの攻撃を受けていたのもあって、樒はほぼ半分体力を削られました。これは危険……!しかし出番は彼に回ってきています、臆して守りに入らず攻めに回ります!
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現在の樒の攻撃力です。f:id:kalino_suke:20191023090414j:image

約200も上がっていますね。これなら大ダメージを与えられそう……!

双光樒斬、いきます!!
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ダメージの瞬間はスクショに失敗しましたが、一人あたり760ほどダメージが入りました。彼等の体力は太刀風さんが600、雷電さんが650なのでオーバーキルですね!凄い!f:id:kalino_suke:20191023091022j:image

奉納点も心火薬も手に入れてほくほくです。恒春がレベルアップしました!

この心よ上がりようをみると、恒春は決して優しい訳では無いんだろうなと感じます。でも常識や良識を理解していて、それを重んじるべきだと考えているからこそ“楽しみたい!”“暴れたい!”と思う己の本能と齟齬が起きて悩んだりしたのかなー。複雑な子だ……
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澄「ご指導ありがとうございましたー!

しーちゃん、次は私も攻撃する側になりたい!」

恒春「……オレも。澄と同じ意見」

山茶花「兄さんさまも?

それじゃあ私も、澄ちゃんたちと以下同文ってことにしようかなあ」

樒「…………ちゃんと後で話を聞く。だから回復する暇をくれ」
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一人体力を半分まで削られて健康度注意状態な樒。初めて挑んだ大ボス戦の片羽のお業さんの時と比べて、本当に余裕を感じられる様になったと言うか。

樒の体力を回復したところで討伐は終了です。
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樒「問題無い。ただいまイツ花」

澄「ただいま!」

 

 

あたたかい かみさま

りいんと、視覚を閉じた暗闇の世界で耳から脳髄、爪の先まで響きわたる鈴の音。この音は、イツ花言っていた合図の音だ。己の前で舞い踊っていた彼女の気配が消え、肌に触れる空気はじわりと刺す暑さから心地の良いものへと変化していった。
一つ、二つ、三つと、心の中で十数え終わると、恒春は息を吐き出してゆっくりと瞼を開く。


「……場所は違っていても同じ天界だからかな。なんか、懐かしい感じがする」


交神の儀式の舞を受けている間ずっと座っていたせいか、数十分振りに立ち上った己の足は若干の痺れを訴えている。
だが今の恒春はそんな痺れよりも、己の瞳に映る壮厳な自然に見惚れるのに忙しかった。


誘導するが如く真っ直ぐに伸びた赤土の山道と、その左右には樹齢百年以上はありそうな立派な大樹達が幾重にも連なって佇んでいる。ここまで立派な大樹を生まれて初めて見た恒春は、ただただ感嘆の声を上げることしか出来なかった。


(どれくらいの年月を掛けたら、ここまで大きくなるんだろ….)


思わず手前にあった木を触ってみたところで、恒春は本来の目的を思い出して手を止めた。こんなことをする為に自分は天界に来たのでは無い、頭を左右に振ってズレた気持ちを切り替える。


自分のすべきことを頭の中で復唱する。
今から己は子孫を残す為に交神をする。交神する相手の神の名は木曽ノ春菜。イツ花曰く、木曽山脈に関係のある神らしい。だから恐らく、見るからに関係ありそうなこの山道の先に彼女は居るのだろう。


『いいですか恒春様。交神の儀でイツ花に出来ることは、お相手の神様の神域付近に一族の方を送ることだけ。
神域内は神々の居住区ですから、その中までお連れする力はイツ花には無いンです。
ですんでェ、天界に着いたらコレだ! って言うそれっぽい神域への道があるとは思うので、その道を進んで行ったら恐らく大丈夫です! はい!』


ぽい、や、とは思う、と言う言葉に些かの不安はあるが、イツ花の言葉通りならこの先の筈だ。ほんの少し湧き出てくる“もしこの道が間違いだったら….”何て弱気を押し退けて、恒春は一歩また一歩と、慎重に一本道になっている山道を歩み出した。


斜面になっている山道を進むのは中々鍛錬になりそうだ。奥に進むに連れて深まる緑や、時折顔を見せる山花に目移りすることも無く、恒春は真っ直ぐに伸びた道をただ只管に歩いて行く。
地面、木、草、時々花。代わり映えのほぼ無い道を進んでいると、まるでこの世に己一人だけと勘違いしてしまいそうな位に生き物の気配を感じないせいなのか、それともこの地がそういう何かを思い起こさせるモノでもあるせいか。
今現在己にしこりと化して蝕んでいる感情やそれを心配する周りの声が、何故か今、ふつふつと心の中で思い浮かんでは自分に囁いて来る。
まるで、いつまで見ないふりをするのと言っている様だ。


『———ねえ恒、私で良かったら話して? ここのところ、様子がいつもと違うのはどうして?』


大丈夫、何でもないから。気にしないで。


『隠してるつもりだろうけどさあ、悪ぃけどおれ達はそっと無視してやる時間が無いんだよ。教えてくれよ、何があったんだ?』


何のこと? 別に普通だよ。放って置いて。


『伽羅姉さまが亡くなる少し前くらい…、よね。兄さまが時々、暗い顔をする様になったの』


そう心配しなくて大丈夫だよ、悲しんでただけだから。でももう立ち直ってるよ。


この場にいない家族達の、自分を案じる声がする。実際に伝えられた言葉もあれば確かに彼等が言いそうな言葉もあったりと、多種多様な心配の声が次々と己に問いかけて行く。
それを振り払うが如く聞こえる声を何度も何度も拒絶して、恒春はかの神に会うために歩き続ける。……そうやって、ずっと拒絶し続けたせいだろうか。聞こえる声が、自分のものへと変化していた。自分の触れて欲しく無い軟いところを、それは執拗に剥き出しにして見せつけてくる。まるで、見て見ぬ振りをやめろと言っているかの様に。


『————家族の死への足音を間近に聞くまで死を理解出来ないヒトデナシ。
それなのに、生死を賭けて戦うのは好き? 生きるか死ぬかの綱渡りが大好き? 
そんなことが出来るのは生死を、命の尊さを理解していないからじゃないの。なあ、命をなんだと思ってるの?』


….うるさいな、そんなこと無い。オレは可笑しくない。確かに姉さんが死ぬまでは理解できていなかった。でも今はちゃんと、命は有限なモノなんだって分かってる。


『ウソを付くな。ずぅっと覚えているんだろ? 鬼を貫いた時のあの感触を、叩き潰した頭蓋の音を、切り裂いてまろび出る臓物の色を。
……思い出す度に湧き出る、その感情はなんだ?』


伽羅姉さんはオレを可笑しくないって言ってくれた。兄さんも芥子達も、きっとそう言ってくれる。オレだってそう思ってる。だから、オレは、


『可笑しくないって? ウソはダメだよ恒春。だってジブンが一番可笑しくないって信じきれていないクセに。
あーあ、皆が可哀想。こんなクズを心配するなんて、時間が勿体無いって思わない? 施しを与える価値も無いって思わない?
ねえ、そう思うだろ? 自分の本音をいつまで否定する!!!?』


ばしんと、音が立つ程強い力で両耳を塞ぐ。聞こえない、これで何も聞こえない。オレは普通だから何とも思わない、感じない、気にしない。
ゆっくりと息を吸い込み、ぐるぐると己の中で渦巻く感情と混ぜ合わせたら、少しずつ吐き出す。嫌なモノ全てが、一緒に吐き出されて消えて行くイメージをする。所詮気のせいだろうが、こうすると少しだけマシな気持ちになれる。


(一人だからかな、嫌なことばかり考えてしまう……落ち着け、落ち着こう)


両手を外し、いつの間にか強く閉じていた瞼も開けて前を見てみると、目の前には今まであった山道とは打って変わって大きな社がそこにあった。
こんな目前に来るまで分からなかっただなんて、と考え込んだまま歩いていた己の不注意さを恥じる。


此処が、かの神の神域なのだろうか。きょろきょろと辺りを見回してみると、斜め前にある柱が、離れた所にあるもう一本の柱と繋がっていることに気付いた。恒春は一歩後ろに下がって見たことで、これが何なのかを理解した。これは鳥居だ。近付き過ぎたせいで、ただの太い柱と勘違いしていたらしい。


「鳥居……ってことは社名が書いてある筈。名前、名前……」


更に数歩下がったことで、鳥居の中央額柱に飾られた神額が見えた。目を凝らして見ると、神額には達筆な文字で“木曽ノ春菜”と書かれている。良かった、自分は間違えずにかの神の社へ来れた様だ。


不安は杞憂でしか無かったのだ。その事実に肩の荷を下ろしていると、くすくすと軽やかに笑う声が、どこからか吹く風と共に耳に入る。
一体誰が、どこで笑っているのだろう。辺りを見回していると、今度はこっちよ、と己を呼ぶ声が聞こえた。どうやら声の主は、鳥居の向こうに居るらしい。奥の方から聞こえたから間違いないだろう。


「はじめまして、こんにちは。私を選んだ人」


その人……いいや、その神は、拝殿の壁に寄り掛かりにこりとこちらに向かって微笑んだ。牙の様な耳飾りと白い毛皮の帽子から覗く黒い襟足、木苺みたいな赤い綺麗な瞳は柔和に細められ、日焼け知らずの白い手は、おいでおいでと恒春を手招いている。


突然現れた彼女に驚いてしまったが、ここは彼女の領域だ。きっと自分が近くまで来た事に気付いて、それでやってきたのだろう。
そう己を納得させると、恒春は春菜の近くまで歩み寄る。交神相手である彼女を前にどこかおっかなびっくりとしながら、恒春は問いに答える為に口を開いた。


「….はじめまして。百鬼恒春です。木曽ノ春菜….様、ですよね?」
「ええそうよ。恒春、私のことは春菜と呼んで?
これから暫く共に居るというのに、そんなに固まっていられたら困るもの。勿論、敬語もいらないわ」


口元に手を当てて優しく笑う彼女の姿に、それじゃあ……と敬語も敬称も止めることを口にする。
己の母である春野鈴女も随分気さくな女神だったが、彼女もかなり話しやすい神である様に恒春は感じた。
芥子の母の東風吹姫、伽羅の父の愛染院明丸等は、自分達が想像する様な神様らしさがあったと聞いていた。彼女もそうだった場合を想定していた恒春は、春菜が想定外に気さくな神な事実に何処か安堵を覚える。気張っているのは、余り得意では無い。


自分はこれから一ヶ月ここに滞在するのかと、周りを見てみようと彼女から視線を逸らそうとした瞬間、目の前に居た春菜に手を取られた。
突然何を、と口にする暇も無く、彼女は拝殿を越え奥にある壮言な佇まいの本殿へと恒春の手を引いて連れて行った。


「ちょっと、あの、春菜……さん?! どうしたの!?」
「春菜でいいと言ったことをもう忘れたの? さん付けもダメよ」
「じゃ、じゃあ春菜! どうして急に歩き出したか教えて欲しいんだけどっ」


ばたばたとお互いに縺れながら靴を脱いで中へ入ったところで、春菜はやっと止まってくれた。
鳥居、拝殿と神社の作りをしていたからこの建物は本殿かと思っていたが、中はまるで人間の生活空間の様だ。現在自分達が居る板の間から廊下に続き、奥には畳の間と広がっているのが見える。
だが同じ生活する場と言っても、我が家とは比べ物にならない程に家具も床も天井も新品さらながらに真新しく、不思議と何処か壮言な空気を纏っていた。神である彼女の居住区だから、こう感じてしまうのだろうか。


此方を振り返った彼女は何故か気まずそうに恒春から視線をずらし、まるで見た目相応の少女の様な表情で、どうして走りだしたのかの理由を語り出す。


「……ごめんなさい。東風吹姫やくららから、貴方達一族との交流がとても楽しかったと聞いていたから……それで私も早く恒春と話がしたくて……。
ここまで登ってきて恒春は疲れているでしょう?
だから早く中に入って、沢山貴方と喋りたかったのよ」


でも何も言わずに走りだしたのは良くないわ、ごめんなさい。再度縮こまりながら謝る春菜に、恒春は思わず吹き出して笑った。何か、緊張していた自分が馬鹿みたいだ。何処か人間らしい行動を取るこの神様と、春菜とは仲良く出来そう。先の行動は、そう思わせるだけの安心感が不思議とあった。


肩を震わせて笑っていると、春菜は少し心外そうにそっぽを向いた。その態度もまた、まるで人の様だ。


「ふっふふ、ごめん、ちょっとツボに入った….!」
「……気が急いていたのは悪かったと思っているわ。でも笑うことはないでしょう?」
「うん、っごめ、ごめんね?」
「そう思っているのなら、いい加減笑うのをやめてちょうだい」


視線を合わせてくれないままでいる春菜は、笑いながら謝る恒春の態度のせいで更にそっぽを向いて行く。そんなところも……と思わなくもないが、これ以上機嫌を損ねてしまうのは、使命を持った百鬼家の一人としても、ただの男としても頂けない。
女の機嫌を損ねていいことは無い、これは短い生の中で姉に妹についでに兄に揉まれたせいで培った恒春の経験論だ。


だが、自分はそこまで気の利く人間では無い。こんな時どうやって機嫌を戻してもらえば良いのかだなんて、頭を捻っても思いつかない。


(素直に謝る? でも三度目の謝罪なんて薄っぺらいだろうし…即座に機嫌を良くして貰える様な術なんて分からないし……こういう時、兄さんならどうするんだろ。あの人社交力だけは無駄に高いから、参考に良いかも)


僅かの時間逡巡した結果、恒春は我が家でコミュ力の頂点に立つ兄の真似をすることを決めた。そう決めたら、自分や芥子達が怒ったり拗ねた時、梔子がいつもしていた動作があったことを思い出す。


ああ、そうか、そうだった。兄は怒る自分や芥子に対して良くしていた仕草があった。これをやれば良いのかも知れない……!


閃くことが出来た恒春は、直ぐに行動に起こす。
両腕を組んで明日の方向を見ている春菜の頭に手を乗せて、軽く数度撫でる。再度謝罪の言葉も付けることも忘れない。
突然撫でられた春菜はと言うと、そんなことをされると思っていなかったのか、目を見開いてぎこちなく恒春の方へと振り返った。……彼女はもしかして、自分が思う以上に表情豊かなのかも知れない。


「ッ!? な、恒春、どうして撫でているの….?」
「……ええっと、な、撫でたかったから….?
春菜、本当に笑ってごめんね。許してくれないかな……?」
「………いい、それはもういいわ….」


何故と聞かれても、兄の真似でなんて情けないことは言えない。そのせいで、こんな斜め上な回答しか出来ない。
これ以上聞かれても困る故に誤魔化しと反省を込めて撫でていると、ほぼ対等の位置に映る彼女の顔はみるみるうちに赤くなった。春菜はぼそりと小さな声で恒春の謝罪を受け入れると、今度は下を向いて顔を伏せてしまった。


(ダメだ、オレも恥ずかしくなってきた……平常心、平常心……!)


……そうも照れた態度を取られると、こっちも釣られてしまうのは仕方ないことだ。妹や弟等の家族ならともかくそれ以外の、ましてや異性の頭を撫でるなんて経験はこれが初めてなのだ。


「……」
「……」


お互いが赤くなってしまったせいで、妙な空気になってしまった。取り敢えず撫で続けているのは失礼だから、恒春は触り心地の良い春菜の帽子から手を退けた。
数秒程気まずい沈黙を過ごした後、お互いにぎこちなく、まるで油を刺していないブリキの様な動作で改めて顔を見合わせる。恐らく自分だけでなく彼女も、このまま固まっていてもどうしようもないと察したのだろう。


「ん゛んっ、……恒春」
「なに?」


春菜は仕切り直す様に咳き込むそぶりをすると、どう見ても無理矢理作った笑み浮かべて話しかけてきた。


「これは私個神がしたいことでしか無いけれど….私はね、恒春。交神するにあたって、お互いのことをよく知りたいと思っている。知った上で恒春と交神をしたいと考えているわ。
だから貴方にこの地を、私を知って欲しいと思って……….そ、それではしゃいでしまったのはとても反省しているのだけど」


思い出して顔が赤くなりそうなのか、春菜は一度口を閉ざして手で顔を軽く扇いだ。
ぱたぱたと数度扇いで落ち着いたらしい彼女は、次の言葉を待つ恒春の袖を引いて、少し前へと歩み出す。


「気を取り直して、まずは立ち話もなんだから、奥に入りましょう?
貴方と落ち着いて話す為に、場所と菓子を用意していたの。
ああそれと、恒春が一月過ごす上で必要そうな物も粗方揃えているわ。
ふふ、……私ね、本当に恒春と話すのが楽しみだったのよ?」


見た目相応の少女染みた破顔した笑みを浮かべると、春菜は再び恒春の袖を引いた。
何処かそわそわとしている様子を見るに、本当に自分が来るのを待ち遠しく思っていた様だ。……直球にそう告げられると、正直照れくさいものだ。


何故だか上手く顔を見れず、視線を逸らしながら恒春は袖を引かれていた腕を持ち上げて春菜に向かって手を差し出した。こうまで言ってくれたのだ。ならば何かしら自分もやらないと、楽しみにしてくれた彼女に釣り合わない。


春菜は持ち上げた時に引くのを止めた己の手と差し出された手を交互に見て、きょとんとした顔へと変化していく。


「恒春?」
「……オレも、春菜と同じ気持ちだよ。せっかく大勢いる神の中から、オレは君を選んだんだ。君は、それに応えてくれたんだ。だからオレも、君を知ってから子を得たいと思った。
…….だから….だからその、さ、」


彼女の前に出した手のひらが、背けている顔が熱い。二の句を早く告げないと、不審がられてしまう。だが、その言葉は羞恥のせいで喉から中々出て来てくれない。しかしこのまま目を合わせずに言うのはなおカッコ悪い……!


(向こうが歩み寄ってくれてるんだから! 良い神様じゃん! 気が合いそうな神様だ!
だからオレもそれなりの態度を取るべきなんだから!! ああもう早く言えよオレ!)


このままでは埒が明かない。意を決して春菜と視線を合わせると、彼女は本当に不思議そうに首を傾げていた。ごめん春菜、急に手を出して赤くなったりして。意味分からないよね。意識し過ぎだよね分かってる。……手汗をかいてきた気がしてきた。


「その、ね」
「? ええ、どうしたの」
「………手、つないで行こう、よ」
「……!」


言った。言い切った。声は震えていたし、段々目を合わせるのが気恥ずかしくて逸らしてしまったが、それでもしたいことをはっきりと口に出来た。
突然の恒春の言葉に驚いたのか、春菜は固まってしまった。だがそれでも、言えたのだから良しとしよう。


だが言えて達成感に満たされた恒春の脳内は、中々返答をくれず口を閉ざしている春菜の様子によって不安へと塗り潰される。もしかしてスベってしまったのだろうか……そんなまさか….。


(どうしたんだろ、何も言ってくれない。やっぱり歩み寄るとしても、手を繋ごうって言うのは可笑しかった……?
………そう、だよね、冷静に考えればただ歩けば良いだけだし、知る必要はあっても手を繋ぐ必要は無いよね……? 
どうしよう、完全にやらかした。今すぐこの場から走り去りたい….誰でもいいからオレを殺して….)


赤くしていた顔を青くしていったりと、忙しない表情変化を見せながら恒春は徐々に手を下に降ろそうとしたその時。そっとその手を、彼女が握ってくれた。
驚き共に春菜の顔を見ると、彼女は照れくさそうにはにかみ、確認するかの様に手の平を合わせて握った両手を見つめていた。


「こうやって誰かと手を繋ぐのは初めてだけど……恒春の手は、とても温かいのね」
「え、あっう、うん。生きてるし….?」
「ふふ、そうね。恒春は生きているから温かいのね」
「そ、だね……?」


恒春が生きている事実が面白かったのか、春菜は何度も手を握ったり撫でたりして楽しそうにしている。照れるからやめて欲しい様なそうじゃない様な、そんな複雑な気持ちになる。


「春菜。その、そろそろ中に入らない?」
「ああ、そうよね。何度も触ってごめんなさい。
用意した場所は恒春に生活して貰う予定の部屋に近いのよ。どちらも屋敷の奥の方だから、ついでに色々と案内するわ」


まずはこっちと手を引く春菜に連れられて、恒春は屋敷の案内を受けた。世話になる上で必要となる食事の場や風呂場、ついでに広間や炊事場等々、一ヶ月の間に行くことがありそうな場やそうでない場所も全て教えてくれた。案内している春菜が兎に角楽しそうで、可愛いな……なんて思ったのはここだけの話。


彼女の従者達の紹介も受けた。山に関する神である春菜の従者だからか、誰もかれも花や何かの枝をその身に付けていたが、そんなことよりも従者達のほぼ全員が自分達を興味深そうに見て来てことに疲れを覚えた。
……はっきりと比較出来る対象が母の春野鈴女の従者達しかいないが、そう言えばあそこの従者もこんな感じだった覚えがある。悪意は感じなかったが興味と好奇心でもみくちゃにされた。今ではいい思い出でだが、当時はとても疲れていた覚えがある。
従者とは皆こういう存在なのだろうか。……多分、紹介して貰った時も手を繋いだままだったのが大いに関係している気はしている。いや絶対これのせいだろう。


案内してくれたどの部屋も兎に角凄かった。まず広さからして自分の家や近所にある家と比べ物にならず、何処もかしこも美しく埃一つ落ちていないんじゃないかと思う程綺麗だった。こんな時に凄い、や広い、としか言えない己の語彙の無さが恨めしい。
我が家で一番博識な芥子だったら、きっともっと相応しい表現で表してくれことだろう。しかし恒春が言えることは、神の住む場所は凄い、くらいである。


そうして様々な部屋を案内して貰い、最後に漸く己が世話になる部屋と、彼女が用意してくれた場所へとやってきた。この場に関してはもう、圧巻の一言しか言えない程の美しさだった。


「わあ……!」
「どうかしら。気に入って貰えると嬉しいのだけど……」


用意された、これまた広い己の部屋の庭から覗く庭は、秋らしく赤々と萌える大きな紅葉の木達が生えており、地面は紅葉の葉によって真っ赤な絨毯を敷かれているかの様だった。
ここまで立派な紅葉を見たのは生まれて初めてだ。


「当たり前だろ。気に入らないなんて無理だよ!
ありがとう春菜、こんなに綺麗な景色は初めて見た!」
「っ本当? 良かった….」


これは家族達にいい土産話に出来そうだ。ほっと胸を撫で下ろしている春菜を余所に、恒春は縁側まで行くと食い入る様に外の景色を眺めた。
京の紅葉も確かに赴きがあって綺麗だったが、今が9月上旬と夏の名残りがある時期のせいでまだまばらに色がついている程度であった。きっと自分が地上に帰る頃には、京の紅葉も美しい朱色に変わっていることだろう。その時は見比べるのも楽しいかも知れない。


赤く染まった天の色を顔を上げて見渡していると、春菜が手を離して縁側から降りた。踏み石て屈んで何かしている姿を不思議に思って覗き込むと、屋敷に入る時に脱いだ筈の靴を彼女は履いていたのだった。春菜の隣には恒春の草履も踏み石に置いてある。


「その靴….それにその草履も。オレ達のだよね?」
「ええそうよ。案内の途中で、あの子達に履物を此処に置いておく様に頼んでいたの。話をする為に用意した場所はこの先だから。
さあ、行きましょう恒春」


菓子もあの子達が用意してくれていると思うわ。靴を履き終えて踏み石を降りた春菜は、再び繋ぐ為に恒春に手を差し出した。
また手を繋ぐという行為に気恥ずかしさを覚えつつも、恒春は彼女を待たせない為にも慌てながら草履を履き、また春菜と手の平を合わせて繋いだ。二人の視線の高さはそう変わらないのに、やはり異性だからか、繋いだ彼女の手は自分よりも小さい。


「縁側からは見えなかったけど、ほら、あそこ。東屋があるでしょう?
あそこから見える景色もまた一等良いの」


春菜が指さした先には、五角形の屋根の東屋が見える。なるほど、庭に降りて少し歩いたところにある故に見えなかった様だ。
手を引かれ、東屋に入り春菜と隣り合って長椅子に座る。椅子の前に設置されている長方形の机にはお茶と団子が二人分置かれていた。お茶は淹れたばかりであることを証明するかの様に熱い湯気を出していて、手に取り不躾ながら指先で触れた団子もまだ軟らかい。恒春達が来る直前にでも用意したのだろうか。


此処までずっと歩いていたのもあって、恒春は正直小腹が空いていた。春菜と繋いでいた手を解き、自分の為に用意された三色団子二本のうち手にしていた一本を一口食べてみる。流石神の領域の食べ物だからか、頬が落ちそうな位に美味い。
その食べた幸福感で顔が緩みそうになるのを堪えながら咀嚼していると、隣に居る彼女にじっと見られていた気配に気付いた。


「……無視して団子に夢中になったりしてごめん」
「いいえ、恒春が美味しそうに食べている姿を見るのはとても楽しいわ。折角恒春の為に用意した物なんだから、何だったら私の団子も食べる?」
「そんな食い意地の張ったマネはしないよ….」
「あら、そう?」
「うん。その団子は春菜が食べて.…」


面白そうに此方に団子を向けていた春菜は、そのまま自分の口の中へ一つ放り込む。口元に手を添えて行儀良く食べている彼女の隣で、恒春は一本食べ終えるとお茶を飲んでほっと一息ついた。
まだ一日が終わるまで時間が随分あると言うのに、この神域で見たもの出たもの全てが印象的だったせいで、もうまる一日分のやる事を全て終えた様な気持ちになってしまう。


(ってダメだ、これから沢山お互いの話をするんだから。しっかりしろ、オレ)


落ち着いて緩みそうになった己を引き締める為に、恒春は隣に座っている春菜に変に思われない様小さく深呼吸をして背筋を伸ばした。急に姿勢を良くしたことを不思議に感じていないか春菜の様子を盗み見ると、彼女はまた楽しそうにじっと恒春を見詰めている。
先程や今といい、そんなに自分は見ていて面白いのだろうか.…?


「春菜、勘違いだったら悪いんだけどさ」
「ん? 何かしら?」
「視線を感じるというか….オレ、そんなに見てて面白い?」
「……私、恒春が気にする程見ていたの?」


頷いて肯定すると、春菜は照れくさそうに頬を手を当てた。彼女はそれを誤魔化す様にはにかむと、何故恒春を見ていたかの理由を話し出した。


「不躾にじろじろ見てごめんなさい。恒春が本当に私の隣に居るのが何だか不思議な心地で……それで無意識に見ていたのだと思うわ」
「ううん、気にしてないよ。それより、オレが隣に居ることって不思議な感じなの?」
「ええ、私にとっては。
……..私はね、恒春。恒春が私を交神相手と選んでから、よく貴方を見ていたのよ。
だから上からでは無く隣に居る事実に少しだけ、不思議な気持ちになってしまうの」


嬉しそうに笑う春菜とは裏腹に、恒春は思わず冷や汗が背筋に流れる感覚がした。見ていたとは、一体どこら辺を見ていたというのだろう……?


恒春が春菜を相手として決めたのは月の初め。それから色々と準備をして数日経ち、今日やっと交神の為に彼女の元にやってきた。恐らく一日二日以上は見られていた筈で……ここ最近の己の様子を振り返り、変なことをしていなかっただろうかと頭を巡らせる。


思考を巡らせる為に、言葉を返す余裕の無くなった恒春。それを見て春菜は、自分がしたことで不快な気持ちにしてしまったのかと不安そうに眉を下げた。


「その、恒春、」
「(最近オレは何してたっけ普段通りだったよねそうだきっとそ….)へ?
あ、何かな?」
「ごめんなさい。ずっと見られていただなんて、不快だったでしょう….?」


春菜はしゅんと縮こまりながら謝った。恒春は慌てて手で制止させると、そんなことは無いと告げる為に口を開く。


「不快になんて思ってないよ。ただ単に、春菜が見ている間に変なことをしているかを気にしていただけ。だから謝らないで?」
「そう、なの……?」
「うん。だいたい、天界の神々がオレ達を見てることがあるなんて知ってるからさ。だからどうとも思わないよ」


見られている事実を認識したのは、確か初代だっただろうか。それとも二代目達だっただろうか。かつて交神の為に天界に行った祖先の誰かが、我々一族を余興として見ている神や、ただ純粋に見守る神が居ると言う事実を持って帰ってきた。
それが本当かどうかは、恒春には分からない。だがかつて幼き日に母の元で暮らしていた頃、恒春は母と共に地上に居る家族を上から見たことがあった。今を生きている家族達の中にも、親の神の元で地上に生きる人々を見せて貰った者が何人か居る。


だからまあ、“祖先が言っていた言葉は本当の可能性は高いのでは?”程度に恒春は考えいている。


春菜に見られていたことについては、これから交神する相手な彼女に見られても恥ずかしくない生活を送っていたかどうかは気にしているが、見ていた事実についてはそこまで気にしていないのだ。そこは間違えないで欲しい。
その事実を懇々と春菜に説明すると、彼女は安心したのか、ほっとした顔をして見せた。


「そう、それなら良かった….」
「本当に平気だからね。
….それよりも、オレは君から見て変なことはしてなかった? そこだけが不安なんだ」
「いいえ? 何も変に思うことはしていなかったわ」
「本当? あー良かった….」


人心地が付いて肩を下ろすと、恒春は少し温くなったお茶を飲みもう一本の団子を食べた。うん、やはりどちらも美味しい。
横でお茶を飲んでいた春菜は、恒春が団子を一つ食べ終えたの見計らい、そわそわと楽しそうに話し掛けて来た。


「ねえ、恒春。お茶も飲んでお菓子も食べたのだから、少しは休息は取れた?」
「え? そうだね、凄く美味しいし景色は綺麗だし……おかげで、疲れは吹き飛んじゃったかも」


冗談ぽく大げさにそう言うと、春菜は更にそわそわとし始めた。彼女は目を光らせて、それじゃあ….と此処に来た本題をやっと話しましょうと口にする。


「じゃあ沢山、沢山貴方の話を聞いてもいい?」
「いいよ。でも勿論、オレだけじゃなくて春菜も話してね」
「ええ、分かっているわ。
それじゃあ、まずは恒春の話を聞いても? 
此処からも見ていたけど、恒春の視点から、恒春のことを知りたいの」


きらきらと目を輝かせて、春菜は恒春のことを教えてれくれと言う。真っ直ぐに自分のことを知りたいと言われるのは、やっぱり少し照れ臭い。でも、悪い気はしない。


「分かったよ。でも自分のことって、どんなことを話せばいいのかな….改めて考えると、何だか難しいね」
「ふふ、そうね。私も貴方と話しているうちに、何を話すか考えておかないといけないわね。
最初は….そうね、まずは恒春の家族について教えて? 家族について知れたら、その中で育った恒春についても、きっともっと知れると思うから」


“ねえ、恒春の家族はどんな人達なの?”、春菜は両手を胸にあてて、今か今かと恒春が話し出すのを待っている。
期待する話を出来るかは正直不安だ。だが自分を知って貰う為にも、恒春は脚色が入らない様に気を付けながらも、見て、聞いて、話して、そうやって共に過ごして来た家族につてい語った。





「—————……へえ、春菜の山々にはそんなに沢山植物が咲くんだ。きっと綺麗だんだろうね」
「時々で見頃の花は様々だけど、どれもとても美しいのよ」
「凄く自信満々だね。いいな、春菜がそこまで言う程美しいのなら、もしオレが生きているうちに呪いが解けれたら見に行きたいな」
「……ええ、その時は絶対に歓迎するわ。」
「あはは。うん、もし解けたら行くよ。約束する」


本当に、彼女は不思議な存在だ。人間で無い、自分の呪いを知っているが家族でも無い、人知を超えた神という生き物。恒春の事情を理解しているが近しい存在で無いのと、彼女自身の気質が己に合っているからか。気が付けばもしも、何て不確かな口約束をしてしまう程に心を許していた。


もう何時間この場で話しているのだろうか。ここには時計が無いから、紅葉の隙間から覗く日差しで計らないといけない。恐らくだが二、三時間は喋っていたと思われる。
自分の話をした、春菜の話もした。互いの今までを、これからの一月何をしたいかを、沢山沢山語り合った。此処の所悩みや自己嫌悪に暮れることが多かったせいか、こんなに楽しいのは久しぶりに感じる。


大いに話に花を咲かせてはお茶を飲んで一息を吐く。何度それを繰り返したか分からなくなった時のこと、春菜は飲み干した湯呑を膝の上でぎゅっと握り、ぽつりと呟いた。


「……ねえ、恒春。教えて欲しいことがあるの」
「教えて欲しいこと? なに?」


何だろうとぼうっとしている自分に対して、春菜は何処か緊張した面持ちでゆっくりと、その口を開いた。


「此処から恒春を見ていた時からね、ずっと思っていたことがあるの。
……それは恒春にとって踏み込まれたくない問題かも知れない。
だけど私は、はこうやって貴方と話すうちに、 見ていた時よりも更に貴方に惹かれたの」
「ぅえ゙!?」


さらっと凄く心臓に悪い発言をされて、恒春の顔を一気に真っ赤に変化する。だが春菜は凄い発言をしている自覚が無いのか何なのか、神妙な顔のまま恒春を気にすること無く続きの言葉を紡ぐ。


「家族が好きで、人を思いやることが出来て、でも少しいじっぱりになることもある、そんな愛おしい貴方に。
……恒春が地上で、顔を曇らせている姿を何度も見たわ。家族から心配されている姿も。
私は、貴方が何か悩んでいることを知っている。出会って一日も経っていない存在に言いたく無いでしょう。
でも、だからこそ。私は恒春ととても近しい存在じゃない、一月限りの関係で、同じ人でも無く神よ。そんな存在だからこそ、打ち明けてみるのに丁度いいと思うの」


息を付き一度言葉を区切ると、春菜は胸元を握り締めて、意を決したかの様に真っ直ぐと恒春と視線を交わらせた。


「だから教えて欲しいの、恒春が何に悩んでいるのかを。お節介でも迷惑でも、私は貴方の力になりたいから」


言い連ねる全てに、恒春への思いやりが見える。だが恒春は己の弱さを知られていたことへの動揺が大きく、目を見開くことしか出来なかった。
どくり、心臓が大きく脈打つ音が聞こえた。春菜が覗いていたと教えてくれた時からもしかしてと思う気持ちがあったが……嫌な予感程、当たるモノは無いらしい。知られたくなかった、知られたくなんてなかった。自分の薄暗いところに、踏み込まないで欲しかった。


知られていたことへの焦りと後ろ暗さが顔に出ていたのか、春菜は湯呑を机に置くと心配そうに恒春の顔を覗き込んできた。やめてくれ、見ないでくれ。ほんの少し前まで浮かれていた気持ちは全て消え去り、今はただただ自分を見て欲しく無くて、覗き込む彼女を手で制す。


「……ごめん、見ないで」
「恒春….」


制していない方の手で顔を覆いながら、恒春は拒絶の言葉を吐く。顔を覆っているせいで見えはしなかったが、服の擦れる音から春菜が覗きこむのを止めてくれたことが分かった。


(……落ち着け、落ち着こう。突然こんな態度を取られて、春菜が困ってしまうだろ。落ち着くんだ)


落ち着けと何度も心の中で唱えると、恒春は覆っていた手を離し、春菜に向って下手くそな笑顔を作って見せた。


「….うん、大丈夫。変な態度を取ってしまってごめんね?」
「いいえ、謝らないで」


安心させる為か、殊更に優しく気にするなと言う春菜に恒春は何て返せばいいか分からなくなる。自分はこの優しい女神にここまでして貰う価値はあるのか、と。


(春菜はこんなオレをい、愛おしいって……そこまで評価される様な凄い人じゃないのに、ダメな奴なのに。
….でも、そんなこと無いって決定付けてしまったら、春菜の見る目が無いことになるよね。それは、ダメだ。絶対にダメ)


ではそんな優しい彼女が教えて欲しいと言っているのを、自分は無下にするのか? 思いやりを跳ね除けるのか? 恒春は己に問いかけた。


(出来る訳無い……いい、よね。話しても。ずっと抱えれる程、オレは強くないから。
ああでも、兄さんや芥子達の心配は拒否した癖に、オレは春菜の心配は受け取るのか。……ごめん兄さん、芥子、山茶花。えり好みしてごめんね)


胸中で地上に居る家族へ謝ると、意を決した恒春は春菜と向き直す。自分がどうするか考え込んでいる間も、彼女はじっと待っていてくれた。そのことへ感謝を覚えながら、恒春は自分の全てを曝け出す為に口を開く。


「オレは……—————————」






己の人生を振り返り、恒春は全て話した。醜い己の性根も、戦いに喜びを見出す異常さも、姉が死んでから理解する様な、死に怯える馬鹿らしい弱さも。全て全て、隠すつもりでいた何もかもをぶちまけた。


家族でも何でも無い所詮一度きりの逢瀬の相手だからか、はたまた彼女が同じ人の世界で生きていない別の生き物だからか、それとも自分が己の中で留めることが難しくなっていたからか。不思議に感じる程するりと、心中の泥達は自分の中から出て来てくれた。


「……そう。恒春、貴方は自分のことをそう思っているのね」


時に相槌を打ち耳を傾けて話を全て聞いた春菜は、全てしっかりと己の中に落とし込んだことを示す様に鷹揚に頷いて笑って見せた。
情けないことを話したせいで、失望を露わにされても可笑しく無いだろう。そう考えていた恒春は何故彼女がそんな態度を取るか分からず、首を傾げてしまう。
春菜は隣で不思議そうにしている恒春を見て、小さくくすりと笑った。そのまま視線を下ろし、自分の手と疑問符を浮かべている恒春の手を重ね、絡め合う。


「はっ?! え、な、なに……?」
「人間は、こうして触れ合うと安心すると聞いたことあがるわ。
どう? 落ち着いた?」
「落ち着くどころか心臓が飛び出そ……」
「そう? 離した方がいいのかしら 」
「あ、いや!? そのままのが嬉しいから!! そのままで!!」

強くこのままで良いと言う恒春の言葉に押され、春菜はその押しの強さに首を傾げながらも、繋いだ手を離さなかった。
自分の言動に恥ずかしさを覚えつつも、恒春は気持ちを切り替えさせてくれた春菜にお礼を言う。


「ありがと、確かに憂鬱な気持ちは吹き飛んだよ。
だからその、そのまま繋いでいてくれると嬉しい、かな……」


“その代わり凄くどきどきしてるんだけどね!!”と、繋いだせいでばくばくと鳴らす心臓の音と共に、恒春は内心絶叫する。自分はこんなにも単純な男だったのか。
己の指と絡み合うその手指は白く細く、ささくれも荒れも無い。少しでも力を込めたら折れるのでは無いか。そんな恐怖さえ覚えてしまう程、彼女の手は今まで見た誰の手よりも美しく華奢だった。


(芥子達の手と全然違う。神様だから、こんなに綺麗なのかな……)


まじまじと己の手を見ている恒春を見て、春菜は目を細めて笑った。自分の手がそんなに面白いのかとからかうと、慌てて何か言わなければとわたわたする恒春を見て、彼女はついに声をあげて笑い出した。


可笑しそうに肩を震わせる春菜に、恒春はそこまで笑わなくても良いのでは無いかと何処か不貞腐れた顔になる。
ひとしきり笑い終えると彼女は手を握る力少し強め、少し高い位置にある恒春の肩に寄りかかり擦り寄る。一方振り回され気味の恒春はと言うと、肩にのしかかる心地よい温度に対して大きく動揺し石像の如くびしりと固まった。


「は、春菜….っ!?」
「目映い」
「え……?」
「貴方は、目映いわ。恒春」


春菜は斜め上にある水色の瞳を覗き込んだ。発言の意図が分からなくて困惑している恒春に微笑みかけると、春菜は子守唄を紡ぐ様な優しい声で懇々と語り出す。


「私は木曽山脈の神として、今まで沢山の生命が私の中で育む姿を見守って来たわ。
それは動物や虫、植物や魚.…両の手では数えきれない程の命達が私の山で育ち、最後は土に帰っていった。勿論、人間だって何人も見守ったことがある」
「人間も….?」


オウム返しで出た恒春の言葉に、春菜はその通りだと頷いた。


「人間も、よ。ずっと、ずーっと見守ったわ。私という自我が産まれる前からも、きっと私は山と共に生きる生命を見守っていたのでしょうね。
薄っすらとだけど、私は大勢の命をと共に生きていたことを、自分を確立出来た瞬間から理解していたわ」


春菜は語りながら、そっと絡めた合った指を親指で優しく撫でていた。その動作と密着した体温にドギマギしそうになる。しかし理由は分からないが、彼女が話す内容を不思議と聞き逃してはいけない気がして、恒春は集中して言葉に耳を傾けた。


「そうやってずっとずっと色んな人間を何度も見ているとね、分かったことがあるの」


春菜は寄り掛かっていた肩から顔を上げて、恒春の顔を覗き込む。“一体何だと思う?”と軽やかな声色で尋ねてきた彼女に何と返せば良いか分からず、恒春はしどろもどろになってしまった。


そんな自分を落ち着かせる為なのか、春菜は繋いでいない方の手で恒春の頭を撫でて宥めかす。ただでさえ距離が近くて心臓が爆発しそうだった恒春は、突然のスキンシップに茹でタコの様に顔を赤くした。う、あ、と謎の単語しか発せなくなった恒春を見てくすくすと笑う。
一定のリズムで頭を撫で続けながら、春菜は子守唄の様に優しく言い聞かせるかの如く続きを口にする。


「時に川の様に、人間は様々な要因のせいで濁ったり凝ったりして、立ち行きいかなくなって燻ってしまうことがあるわ。
でも、それでもどろどろの心持ちでも、生きて命を繋いでいるとね?
人間は少しずつ上手に澱みを吐き出せる様になったり、そういう経験をしたからこそ深く美しい確固たる己を持てる様になる。勿論、皆が皆そうなれる訳では無いけれど……嫌で堪らなくなっても、泣き出したくなる位に失望しても、それでも諦めないで向き合おうとする子達は皆、目映い程に美しくて愛おしい」


恒春の肩から顔を上げて撫でる手を止めると、春菜は一拍置いて言った。


「恒春、今の貴方は濁ったり凝ったりしている最中なのよ。それを経ることで、きっと恒春は美しく逞しい人間へと成長するわ。
弱くていいの、楽しんでいいの、怯えていいの。私は貴方の感情を尊ぶわ。だってその感情を含めた全てが、私が惹かれた恒春の一部だもの。いつかきっと、恒春は今よりももっと素敵な人間になれるわ」


私はそう信じていると、彼女は眩しいモノを見る様な目で言った。
照れ隠しで春菜が撫でていた場所を少し触ってみながら、そういうモノなのかなと恒春は口にする。
自分は今の自分が嫌で仕方が無くて、気持ち悪いとすら思っているのに……こうも好意的に受け止められるなんて。少し、ほんの少しだけど。溜め込んでいた悩みを話したことで、春菜に自分の悩みを否定せず受け止めて貰ったことで、恒春は心が少しだけ軽くなったのを感じた。


「そういうモノよ。少なくとも、私はそう思っているわ」
「……そっか」
「ええ」


にこりと笑う春菜に釣られて、恒春は同じように口元に弧を描く。
……彼女が目映いと、美しいと、嫌に思っていたモノを肯定してくれるのなら。自分が嫌に思っている自分も、存在していいんだと安堵を覚えた。


(神様が、春菜が信じてくれたんだ。それなら、この弱さと一緒にもっと強くなりたいな。でないと信じてくれた春菜に悪いし。….燻ったままでいるのは、カッコ悪いよね)


恒春は心中で結論付けると今日一、いや、ここ最近で一番の憑き物が落ちたような晴れた顔になった。春菜は恒春のその変化を見て、どこか嬉しそうな表情へと変化する。
……ああそう言えば、聞いてくれた彼女にまだお礼を言っていない。


「春菜、ありがとう」
「ふふ、なんのことかしら? 私はただ、話をしただけよ」
「オレにとってはそれだけじゃ無かったから。だから、ありがとう」


晴れやかな笑顔を浮かべる恒春を見て、春菜は眩しそうに目を細める。
彼女は椅子から腰を上げると、不思議そうに見上げる恒春の耳元でそっと呟いた。


「こちらこそ、歩み寄ってくれてありがとう。恒春が交神相手で、本当に良かったわ。
これから一月、改めてよろしくね」


うん、よろしくね。顔を見合わせて、二人は軽やかに笑い合う。
最初は不安があったが、今ではそんな気持ちは微塵と無い。ああ、彼女を選んで本当に良かった。

子狐の世界

────幼い僕の拙い記憶。僕が初めて綺麗だと思ったものは、視界全てを埋めてしまいそうな程に広がった、たわわに実った黄金色の稲穂だった。

 

 

「んん、芹だから……せっちゃん?  セリー?

どっちがいい?」

「セリー、がいいかな。

ちゃん付けだと、樒様とかぶってしまうだろう?」

「確かに….! じゃあセリーって呼ぶね!

私のことは好きに呼んで?」


花笑みとは、この様な笑顔のことを言うのだろう。隣を並び歩く澄の笑顔を見上げて、芹は一人でに納得を覚える。

そう連想してしまうのは、彼女が花をその身に持っているから、と言うのも理由としてあるのかも知れない。


「それなら……ううん、そうだなあ。澄ちゃん、とよんでもいいかな?」

「もちろんいいよ!

って、あ、行き過ぎちゃうとこだった! 

えっとね、あっちにあるのがよく行く防具屋さんと武器屋さんで、防具屋さんの隣にあるのがお茶屋さん。

あそこのみたらし団子はね、すっごく美味しいんだよ。百鬼家ごよーたしのお店なんだって」


お喋りに夢中になっていたことを恥じたのか、澄は照れた顔で教えてくれた。

地上に来てまだ数時間。名前や職業決め、家の案内等の大事なことが終わって手持ち無沙汰になった今現在。芹達は澄の提案によって京の都を案内して貰っている。


どうやら芹の次に幼い彼女は、初めて出来た自分より幼い家族に何かしてあげたくて堪らないらしい。

沢山歩いて疲れていないか、喉は渇いていないかと、芹にこまめに尋ねるその様子はとても愛らしい。自分達を見る大体の通行人達も、微笑ましそうに自分達を見ている。……大体は、だが。


(うらみちの二人、そこの雑貨やに一人、……たちばなししているあの三人も、だね。子供をみまもる視線とは言いにくくて、とてもわかりやすい。街中は人がおおいぶん、そういう人もおおいのか)


澄の案内を聞きながら、自分達に忌諱な目を向ける人間達を頭に入れる。誰がそんな風に見ているか知っている方が、今後地上で生きる上で便利だと芹は判断したからだ。


彼等は、芹達の額の玉に視線を向けていることが多い気がする。

一族のことを天界で父から聞いていたおかげで、そんな目を向ける気持ちは分からなくはない。呪われた存在が近くにいたら、一つや二つ思うことはあるだろう。が、それでも向けられる側としては良い気はしないものだ。

頑張って教えてくれている澄に気付かれない様、芹は小さな声でそんな人々に対して悪態をついた。


「わずわらしいなあ……」

「ん?  セリーなんか言った?」

「ううん、何も言っていないよ」

「そう….?」


不思議そうに小首を傾げる澄に、芹は何でもないと首を振って笑う。それにしてもこの二ヶ月年上の家族は、ずっとあの視線を向けられていると言うのにとても平然としている。慣れているのか、それとも鈍いのか。まだ澄と出会って一日も経っていない芹には、そこを見分けることは出来ない。

取り敢えず追求されても困るので、芹は地味に気にしていたことを口にして話題を変えることにした。


途中、“芹達は澄の提案で”と言っていたことを覚えているだろうか。ずっと二人で喋っているせいで芹も忘れそうになっていたが、本当はあと二人、一緒に都に来ている者達が居る。


「それより、樒様たちとけっこうはなれたから少しまっていようよ」

「え?  ほんとだ、いつの間に……おーいしーちゃーん!  山茶花ねーさーん! はやくー!」


後方で小人に見える程遠く離れていた樒達に、澄は大きく手を振って合図した。芹もそれに倣い、小さく手を振って彼らを呼び寄せる。

目立つ髪色なおかげなのか二人は芹達を見失ってはいなかったらしく、足早に合流して四人は顔を突き合わせる。


実は澄だけでは無く、樒と山茶花の二人とも一緒だったのだ。

最初は芹達だけで都に行こうと支度をしていると、幼い自分達だけで出掛けることを不安に思った母達によって、お目付役として樒達と一緒に行く様にと言われたのである。

樒と山茶花が選ばれた理由は、年が近い方が来たばかりの芹が話しやすいと考えてのことだろう。芹はそう睨んでいる。


樒達は最初、芹達の後ろをちゃんと付いて歩いていた。しかしまだ二人より小さい芹と澄は人混みを抜けやすかったらしく、徐々に二人と離れてしまったのだ。


「気付いてくれて良かったあ……このまま見失ってしまのかなって思ってたの。

澄ちゃんも芹ちゃんも、先にどんどん進んだらダメだよ?」

「はーい、ごめんなさい姉さん」

「ごめん。次からは気をつけるよ」


歩く人の邪魔にならない様に端に寄りながら、心配そうに言う山茶花に芹達は素直に反省を見せる。そんな二人に対して、今度からは気を付けようねと山茶花は優しく頭を撫でた。


和気あいあいとした雰囲気で次は何処を案内するかと言う会話に参加しつつ、芹はちらりと、話しの渦中に入っていない人物を眺める。

人並みに呑まれまた芹達が離れない様にする為なのか、樒は壁際で喋る芹達三人よりも少し道側に立って周囲を眺めていた。一応会話は聞いているのか、山茶花達に喋りかけられたら短くだが言葉を返している。


(地上にきて一日目だからしかたないけど、もっとかれと話をしてみたいな……。

かれは、僕たちのしゅだ。父上にとっての豊穣のように、尊ぶにあたいするそんざいなのか、知るひつようがある)


地上に降りてからずっと、芹は一貫して樒を敬う立場を取っている。

最初は何故敬語なのかと周りに首を傾げられ、そんな態度をしなくて良いと言う者もいた。だがされている樒が気にしていないのと、したいなら好きにすれば良いんじゃないかと言う意見も多かった故に、最終的に誰も口を出さなくなったのだ。

母はずっと複雑そうな視線を送っていたが、この口調を改める気は今のところ無いので、申し訳無いが流すことにした。


視線を向け過ぎていたのだろうか、そっと様子を観察していたら樒が振り返り、自分達の方へと歩み寄る。芹は誤魔化す様に目を細めて笑い、どうしたのかと訊ねる。


「樒様、どうかなさいましたか?  僕になにかごようでも?」


幼いせいで上手く敬語を操れない己の舌を癪に感じていると、樒が芹の手を取って更に端に寄せた。喋っていた澄達も樒の行動に気が付いた様で、首を傾げて繋がれた二人の手を眺めてから樒に視線を送る。


「わあ、樒ちゃんがお兄ちゃんしてる。ふふ、何だか嬉しくなっちゃうなあ」

「どしたのしーちゃん、セリーと手を繋いで。山茶花姉さんの言うとおり、お兄ちゃんしたくなったの?」


微笑ましそうにからかう様に笑う山茶花と澄に、樒は首を振り空いている手で後ろを指差した。


「いいから耳を澄まして後ろを見ろ、向こうにある茶屋で諍いが起きている。

巻き込まれないよう、念の為に離れるぞ」


一斉に樒が指差した方向を見る。だがしかし、芹はまだ背が足りなかったせいで周りを歩く人間に遮ら、見ることは叶わなかった。澄も同じく見えていないのか、つま先立ちになったり跳んだりしている。代わりに耳を澄ましてみたが、この辺りは特に店が多い区間のせいで元から喧騒も大きく、どれが諍いの声かは分からなかった。

三人の中で唯一山茶花だけは見えたらしく、少しだけ眉を顰めてからそっと澄の手を握った。見上げてきた澄を安心させる為なのか、山茶花は優しく笑いかけて茶屋とは反対の方向へと体を向ける。


「また離れたら私が不安だから、澄ちゃんは私と手を繋いでちょうだい?

芹ちゃんは樒ちゃんが何処にも行かないように、ちゃんと握ってあげてね」

「わかったよ姉上、まかせて」

「ね、しーちゃん。茶屋っていつものお茶屋さん? おじさん達大丈夫かな……」

「……取り敢えず、茶屋から距離を取るぞ。

いい….」


樒のその言葉を遮る様に、がしゃん、と何かが割れる音と共に足元へ欠けた皿が転がってきた。落ちたのはこの皿なのだろうかなんて、思わず目で追ってしまう。

突如響いた音のせいで静かになり止まった人波のおかげか、今度ははっきりとした怒声が芹の耳にも入った。


「もう一度言ってみろよゴラァ‼︎‼︎  お前今なんつった、ああ゛⁉︎」

「ああ言ってやるさもう一度聞てェならなア‼︎」

「お、お客さん落ち着いて……!」


「この、〜〜〜〜ッ‼︎」

「〜〜〜〜〜‼︎‼︎」


最初は何と言っているか分かったが、罵声が酷過ぎて最早言葉とし理解不可能となってきた。頑張って宥めようとしている店員らしき人の声も微かに聞こえるが、男達の声によってその努力は悲しくもかき消されている。迷惑な客の対応に追われるとは大変なことだ、ご愁傷様としか言いようがない。

不運に陥っている茶屋に対し、芹は他人事ゆえに頑張ってくれと僅かな憐れみを投げる。可哀想だが、自分ではどうすることも出来ない。


一瞬の静寂の後、喧嘩という見世物に釣られた人間が続々と件の茶屋へと集って行く。巻き込まれたく無い自分達の様な人達も同じように動き出したせいで、小さな芹達はまんまと人混みに揉みくちゃにされ、あれよあれよと言う間にその場から流されてしまった。


「わ、っと。うう、人凄いちょっと楽し……ううん、セリー!  セリーは大丈夫? しーちゃんと手を離さないようにね!」

「樒様が手を引いてくれてるから何とか……。こっちは大丈夫だよ!」


幸いなことに、あらかじめ手を繋いでいたお陰で芹達が散り散りに離れることは無かった。年少二人の手を取っている樒達が上手く人波を躱し、付かず離れずの距離を保っているおかげで今のところはバラバラにならずに済んでいる。

だがしかし、それでも大勢の流れには逆らうことは出来ず、最初に留まっていた場所から徐々に芹達四人は動いていった。


面白そうだと喧嘩を見に行く者、子供を抱えて正反対の方向へと逃れようとする者、自分達と同じで流されてしまっている者……一人一人の顔を見てみると、その人間がどんな気持ちでいるのか見えてきてとても面白い。顔だけでなく、手足や体の動きを見ると更に分かるものがある。人間とは、こうも全てで意思を表す生き物なのか。


(むこうでは父上とじゅうしゃの狐たちしかいなかったからなあ。

書物やうえからみる人間のすがたと、実際のすがたじゃこうも違うのか。おもしろい)


ふと、己の手を引く樒を見やる。強制的に動き続けているせいで、彼の左耳にある耳飾りが忙しそうに揺れていた。その耳飾りとは正反対の色合いを身に宿すその人は、静かに周りの流れを読みながら、自分を庇う様に前に出て歩いている。

幼いながらも芹を人混みから守ろうとするその姿勢は、素直に好感を覚えた。まだそんなに樒を知らないが、この数時間見た限りからの評価だと、彼はそこそこ人並みの良識ある人間だと感じる。


周囲や樒を見ていると、斜め前で澄を庇って歩いている山茶花が困った様な声を上げた。


「うーん……樒ちゃん、気付いてる?」

「ああ。このままじゃ面倒なことになるな」

「やっぱり?  無理矢理この場を離れるとなると荒っぽくなるし……困ったなあ」

「ん? 姉さん達どうしたの?  きんきゅー事態?」

「そこまででは無いけど、ちょっとね」


困り笑いを浮かべる山茶花に、澄は不思議そうに頭に疑問符を浮かび上がらせる。

このままだと何がいけないのだろうか、澄と同じで芹も分からないでいた。

周囲を見回してみるも、特に変わったことは無い。辺り一面人だらけ。でも……


「……ああ、なるほどね」


転ばない様に注意しながらも人波に乗っていたら、気が付くと芹達は件の者共の罵声や怒鳴り声がはっきりと聞こえる位置まで来てしまったようだ。軽く人の合間を覗いて見たら、小汚い格好の男達が胸ぐらを掴みあい殴り合う姿が見える。

更に合間を縫って辺りをよく見てみると、手をさ迷わせ真っ青な顔をして彼らの傍に居る男と若い女が目に入った。似た顔立ちからして親子と思われる彼等は、前掛けをしている姿を見るに、あの店の者なのだろう。


「お前のせいで金が駄目になったんだろうが‼︎ 責任取りやがれ‼︎」

「あん時しくじったのはテメェだろふざけんじゃねぇよクソが‼︎‼︎」

「お願いですやめてください本当にやめてください……‼︎」


「いいぞーお前らー!」

「おいお前どっちが勝つと思う?」

「あーどっちにしようかねー」


罵り怒鳴り汚い喧嘩を繰り広げる男二人、何とか仲裁に入ろうとしている店主らしき父親、少し離れたところで怯えて見ている娘、そして一定の距離を取って好奇の目で、何なら囃し立てさえいる多くの野次馬達……。こういう場面を、阿鼻叫喚と呼ぶべきか。


自身は身動きが取れず、手を引いている樒もどう切り抜けようか考えているのか、山茶花と顔を近づけて何か喋っているせいで動く気配は無い。

ただ狭苦しい中で押し潰されることに飽きた芹は、品が無い行為だと自覚しながらも周りと同じ様に野次馬に興じることにした。暇なのだからしょうがない。どうやら己は少し飽き性なのかも知れない。いや、この場合は自由気ままと言うべきだろうか。

袖と袖、人と人の合間からどうにか顔を覗かせていると、何やら事態は良くない方へと進んでいる事が分かる。


「やめましょう、ね? 危ない….」

「ッあ゛あ゛~~~~~‼︎ だいたい、さっきからうっせェんだよジジィ‼︎」

「ぐ….っ‼︎」

「おとうさん‼︎!」


(ああ、可哀想に)


突如、喧嘩をしていた片方の男によって仲裁していた人物が吹き飛ばされた。やんわりと引き離そうと腕に触れた店主の腕を逆に掴み、壁へと投げたのだ。怒りのあまりかなり強い力が出ていたのか、そこそこ激しい音を立てて店主は床に蹲り、青い顔をして駆けつけた娘に抱き起こされている。

流石にそれはまずいと思ったのか、店主に手を出さなかった方の男が投げた男に向かって糾弾し出した。だが激昂状態の荒れている方は、悲しいことに全く止まる気配が無い。


流石に野次馬達も第三者が巻き込まれたのはどうかと思ったのか、店の人間は大丈夫なのか、自警団はまだかと言う声がちらほらと聞こえ出す。それでも囃し立てる人の声が大きく聞こえている辺り、今の京の民度はそこそこの様だ。


芹が一人周りを分析していると、小さく腕に振動を感じ取る。振り返ってみると、樒の着物の裾を澄が引いていた。そのせいで樒と手を繋いでいる芹にも振動が来たらしい。

彼女は不安と焦りが混じった顔で茶屋と樒の顔を交互に見ながら、野次を飛ばす周りに負けぬよう声を張り上げて言葉を伝えてきた。


「しーちゃんおじさんがっ! 助けにいっちゃダメ⁉︎ このままじゃお姉さんも危ないかも知れないから……っ!」

「澄ちゃん落ち着いて。 危ないだけから、ね? 行くのはダメだよ。一度落ち着いて」

「でもおじさん達が‼︎ 私ならあの人達をやっつけること出来るからっ」

「……」

「しーちゃん!」


“だから助けに行かせて‼︎”と、 今にも手を振り解いて渦中に行こうとする澄を山茶花が必死に宥めかして止めている。流石に勝手に行くのは良くないと思っているのか、この場で一番責任のある立場に居る樒に許可を得るため、必死になって言葉を連ねていた。

そんな妹に困っているの苛立っているのか、見上げた先にいる樒は一瞬だけ眉間に皺を寄せた。本当に一瞬だったせいで、樒の表情の変化に気が付いたのは恐らく自分だけかも知れない。

樒は一度目を伏せると、澄と真っ直ぐに視線を交わした。だが顔を合わせただけで、彼の口は固く閉ざされたままだ。もしや、何て答えを出せばいいのか迷っているのだろうか。


確かにただの子供じゃない自分達なら、ただの人間の大人等造作もなく鎮圧出来るだろう。

とは言ってもこの中で一番幼い芹には難しいと思うが、普通じゃない力を持って常に鍛錬をしている澄達なら、もしかしたらそこらの大人達よりも確実に場を鎮めることが出来るかも知れない。

しかしこれは、地上生活数時間しか経っていない芹の考えだ。実際のところどうなのかは、正直今の自分には分からない。


(樒様は、どうするのだろう)


幾ら知り合いだからと言って、わざわざ面倒事を跳ね除ける義理は無いと芹は思う。だとしても、義憤に駆られている澄を止めるのは容易では無いだろう。

京の民と平和を守る武人の家の立場として動くのなら、止めに行くかも知れない。

ただの人間の子供として動くのなら、澄の手を取ってこの場を離れるのかも知れない。

一族の進言を受けた当主としてなら……彼の場合、何て答えるのか。樒個人をまだ理解出来ていない芹には、検討が付かず分からない。


行く行かせてダメ落ち着いてと、少し大きく騒いでいたせいなのか周囲の注目の視線が少し流れて集まってきた。

あれはあの子供達は、この子達なら、どうにか出来るのではないか….と。


「ねえ、あそこに居るのって百鬼一族の….」

「本当だ。なあ、アイツらならどうにか出来るんじゃないか?」

「あの一族は強い奴しかいないって聞いたことがあるわ」

「おれ前に見たことあるぜ。あいつらが鬼をボッコボコにするところ」

「あの子達はまだ子供だけど、百鬼の子だ。きっと恐ろしい位強いに決まってるよ」

「名前の通り、百鬼のは百の鬼よりも強いって聞いたことがある。恐ろしい……」


一人、また一人と芹達へナニカを込めた視線を向ける。期待、信頼、畏怖、恐れ……様々な感情がない交ぜにされたモノだ。

芹がまだ人間という生き物になれていないからか、頭上から沢山の視線を向けられて咄嗟に後ずさりそうになる。だが、


「芹、大丈夫か」

「あ……うん。へいきです」

「そうか。ならいい」


周りからの目を遮る様に、樒は芹の前に立って顔を覗き込んだ。多分、彼なりに心配してくれたのかも知れない。

幾らマセていても、芹はまだまだ小さい。その気遣いは、正直今の自分にとって有り難かった。こんなに人間まみれになるのも、見られるのも、初めての自分にはとても疲れるものだから。


覗き込むのを止めた樒は芹の手を引き、自身の背中に芹の鼻が付いてしまいそうなくらい近くへと引き寄せる。周囲からは未だ絶えず喧嘩の声や自身達への声が聞こえているが、視界一面は彼の紺色の着物だけしか見えなくなった。

….背に守られているからか、少しだけ心が軽くなった気がする。


山茶花姉さん、しーちゃん….!」

「ちょっと目立ってきちゃったなあ……….。

…..ねえ樒ちゃん。これはもう、仕方無いんじゃないかな」


ヒソヒソと交わされる自分達への言葉のせいか、樒を挟んで聞こえてくる澄の声は心なしか弱まっている。さっきまで彼女を止めようとしていた山茶花の声も、どこか諦念が混じっている様に感じた。

樒は、我らの主は、どうするのだろう。


「っせェなあ゛゛‼︎  おい待ってろ、このジジィ黙らせたらテメェもぶっ潰してやるからよ‼︎」

「ひ……ッ!」

「おいお前其奴らは関係無いだろうが‼︎  関係無い奴巻きこもうとするとかなあ、だから頭足りないグズだっつってんだ分かんねえのかアァ⁉︎」

「んだとゴラァ‼︎」

「だ、誰か……だれか助けて….!」


向こうはかなり激化しているらしい。声しか聞こえず、茶屋と知り合いでも無い芹は、正直のとこ澄や見えている二人程の感慨が無い。そういう情緒は、今後の自分に期待したいところである。

自分で思うよりも芹は図太い質なのか、それとも順応が早いのか何なのか。さっきまで見られていることに気後れ気味だったのと言うに、だいぶ平常心に戻っていた。何となくだが、自分だけで平気になったのではなく、背に守られているのもあって平気になったような……そんな気がしている。


一人でに思考していると、ぽん、と軽く頭に何かが乗っかった。確認する為に見上げてみると、自分の頭を撫でていた樒と目が合う。そのまま二、三度軽く乗せるだけの撫で方をしている間も、彼の表情はぴくりとも動かない。芹は樒が何を考えてこうしているのか全く分からず、とたん困った顔になる。


「ええと、樒様….? いかがなさいました?」

「少しここを離れる。芹は山茶花達と一緒に居てくれ……山茶花、澄」

「はあい、こっちは任せて」

「! しーちゃん、それって……!」


それは何故頭を撫でているかの理由になっていないのでは。

芹がそう口にするよりも早く、樒は山茶花の元へと芹を押しやった。

山茶花が芹の空いている方の手を握ったの確認するや否や、樒は繋いでいた手を即座に離し、輝いた顔になった澄に一瞥を寄越してからするすると簡単に人波から消えて去っていく。


(もしかして止めに入るつもり……?)


それとも他に何か……いいや、状況的に確実にそうだ。だとすれば、こうして居る訳にはいかない。芹は己の心が逸り出すのを感じた。

自分は樒が主として相応しいかを見極めないといけないのだ。今から彼がどうやって仲裁するのかどう動くのか、それはきっと、見極める判断材料の一つとなりえるだろう。


樒が消えて行った方向を心配そうに見ている山茶花の手を引いて、芹は何としてでも傍へ行きたいと言う思いを伝える。姉上達だって気になるだろう、と。


「姉上、澄ちゃん」

「なあに芹ちゃん、どうしたのかな?」

「おねがい。僕はどうしても、樒様がみえるちかくまでいきたいんだ」

「芹ちゃんそれは….」

「もしまきこまれたら危ないことになるのはわかってるよ。

でも僕は、あの人がどんな人なのかしりたいんだ。

そのためにそばに行きたい、みさだめたいんだ」


人、人、人で溢れ押される中で何とか頭を下げて、自分が真剣な気持ちで発言していることを表す。自分はまだ弱い。もし巻き込まれでもしたら、簡単にやられてしまうかも知れない位に弱い。

残った自分達を取り纏めているのは山茶花だ。彼女から手を離して勝手に行くのは得策では無いだろう。それに小さい自分だけでは、行った所で人波に呑まれて別の場に流れてしまうが関の山だ。だからこそ、誠意をもって頭を下げた。

……だって主とは、芹にとってとても大事なモノだから。


(いまの僕に出来るせいいの示しかたはこれしかない。おねがい、姉上)


下げたままでいる芹の耳に、あの茶屋からの怒号が不自然に途切れたのを感じ取った。恐らく樒が何かしたからだろう。

ああ早く彼がどうするのかを、この目で耳でちゃんと知りたい。


「….姉さん、私も行きたい」

「澄ちゃん……」

「しーちゃんが強いのは知ってるよ。でも、強くてもやっぱり心配だから。山茶花姉さんも、本当は心配なんでしょ?」


「しゃしゃり出て何言ってんだこのクソガキが!! テメェに用はねーんだよ!!」

「~~~…」

「聞こえねぇよクソが!! あああああイライラするなあ!!」

「おいコイツ呪われた一族のヤツじゃ……」

「樒くん…!」


芹の肩を持つ澄の言葉と、再び聞こえてきた男共の発言に背を押されたのだろう。山茶花は小さな声で分かったと言うと、握っている二人の手への力を少しだけ強くする。


「いい? 絶対に私から離れないようにね」

「姉さん….! うん、絶対に離さないよ!」

「ありがとう姉上!」

「大丈夫なのはわかっているけど……それでも樒ちゃん一人行かせたのは心配だもの。だから気にしないで。

それじゃあ私の行く通りに歩いて。ね!」


言い切るのと同時に足を踏み出し、山茶花は人と人の細い隙間を縫い分けて前へ進む。芹達はまだ小さい自分の体を活かし、山茶花が通った場所に何とか飛び込んで後を追い掛けた。

ぎゅうぎゅうと押されながらも如何にかこうにか後に続いて行くと、ぱっと目の前が開けて圧迫感が消え失せる。


(気持ちすずしくなった気がする……樒様はどこだろう)


ふう、と一呼吸をついて前を見ると、茶屋の看板が目に入った。樒は何処だろうかと視線を動かすと、探さずとも直ぐに件の人物達と一塊になっている姿が目に移り込んだ。


樒は自分より一回りも二回りも体格の良い男の腕を捻り上げ、地面に膝を付けさせていた。相手は痛がりながらも汚い罵詈を述べているが、対する樒は今日初めて対面した時と変わらない表情だ。

少し離れた場所に、恐らく喧嘩していた片割れである男も居る。この男は冷静を取り戻したのか、抑えられている男と樒を見比べてどうするべきかと目を彷徨わせていた。少しだけ聞こえた自分達のことを知っていた方の人物は、恐らくこっちなのだろう。


「クソ離せこのっ、いだだやめろそれ以上捻んじゃねぇ‼︎」

「俺は何もしていない。お前が動くからだ」

「このガキふざけんじゃねいだだだだいっってぇ……っ‼︎」

「お、おい。ちょっとお前いい加減落ち着けって……」


状況を把握していると、自分達の存在に気が付いた男女がこちらに駆け寄って来る。前掛けをした小柄な中年の男性と、その男性によく似ている髪を一纏めにした少女の二人組。どうやら茶屋の主人と娘らしい。

二人はほっとした表情で、人混みから出て来た山茶花に話し掛けた。


山茶花ちゃん!!」

「おじさん! おねーさんも! 大丈夫?  怪我はありませんか?」

「あ、ああ。私達は何ともないよ」

「ええ。もう少しで殴られそうだったけど、樒君が助けてくれたから……」

「二人とも良かった〜〜!  ほんとに無事で良かった!」


山茶花達が店主と娘の無事な姿に安堵していると、芹の中で雑音として処理していた抑えられた男の呻き声が怒声へと変化した。

何事かと全員が声がした方を向くと、男が欠けて鋭くなった皿の破片を掴み、背後にいる樒の足に向かって振りかぶっていた。


「しーちゃんっ‼︎」

「っ……!」

「だいじょーぶ。二人共、大丈夫だよ」


悲鳴染みた声がその場一体に響く。皆んな最悪の結果を想像したことだろう。


自分だって声を上げそうになった、思わず固く手を握り込んだ。澄なんて即飛び出そうとした位だ。

だけど芹と澄の手を握っていた山茶花が、安心させる様に自分達を後ろから抱きしめたから。その落ち着いた声色と温もりの効果、だろうか。芹は固く握っていた手を解き、澄は足を止めてその場に留まった。


「樒ちゃんの顔を見て。いつも通りの顔をしているでしょう?  

大丈夫、樒ちゃんは油断もしていないし落ち着いているわ。大の男くらいへっちゃらだよ」

「そう、….だね」


樒は咄嗟に男から離れ、刺されることは無かった。距離を取った彼の顔には動揺も焦りも見えず、山茶花の言う通り、ずっと変わらぬ無表情のままだった。

抑えていた手が離れたことによって自由になった男は、まだ怒りが収まっていないのか怒りに満ちた顔で破片を片手に樒に飛びかかる。


「よくもやってくれたなこのクソガキがぁ‼︎‼︎」

「お前本当にいい加減にしろ‼︎  相手はガキだぞ‼︎」


自分よりも怒ったり悲しんだりする者が側に居ると逆に冷静になる理論だろう、さっきまで同レベルの喧嘩していた筈のもう一人の男は、樒を守る様に飛びかかってくる男の前へと立ちふさがる。


これがもし庇っているのが普通の子供だったのなら、このまま後ろに隠れていたことだろう。しかし、自分達は呪われた一族の子供だ。


「────問題無い、退いてくれ」

「おまえ、っおい‼︎」

「邪魔だテメッッっ─────────ぐ、うあァッ‼︎!?」


飛び蹴りを一つ、それはそれは見事な流れで樒は男の顔にめり込ませた。

己の前に立っている男の肩に手を置いて軸にし、勢いよく回り込みながら体を持ち上げて、目の前で下手で破片を持っている怒る男の顔に足の甲を叩き込む。


蹴りを直撃した男は破片を手放して地面に倒れ伏す。百点満点な着地まで済ませた樒はそのまま男へ近づき、近くに落ちていた皿の破片を遠くへ蹴り飛ばした。

一連の流れを見ていた野次馬達はさっきの悲鳴とは一転し、今度は面白い見世物を見れたことに興奮して一斉に高い歓声を上げ始める。びりびりと耳に響く程の周りの声に、芹は思わず耳を塞ぎたくなった。抱きしめたままでいる山茶花も吃驚したらしく、体が一瞬固まったのが触れ合っている感覚で伝わってきた。


「すっげぇ! 流石百鬼の!」

「ははは、坊主やるな!」

「いやー凄い光景だった!」

「あの子、自分よりデカいを蹴り飛ばすなんてやるねえ!」


歓声喝采賞賛の声。喧嘩が娯楽になる彼等にとって、少年が大人を倒すと言うまさかの展開は中々の見物だったのだろう。少なからず、目に見える範囲の野次馬達は酒を飲んだかの様に興奮しきっていた。

……だが得てして不快なモノというのは、己の中に入れたくないからこそ敏感に感じ取ってこれは見てはいけません聞いてはいけませんと主張してくる様だ。


「〜〜〜……」

「〜〜…」


はしゃいでいる大勢の声が大きいせいで、何と言っているかまでは分からない。しかし、この場を収めた樒を見る目が周りと違い過ぎるせいで嫌でも伝わってくるものがある。雄弁に語る有象無象共のその目が、実に忌々しい。


(せめてかくす努力をてしてくれ。とてもふかいだ。

樒様たちが気づいたらどうしてくれる….!)


芹はこの数時間でそこそこの家族愛に目覚めたらしい。樒達が気が付いてしまっていないかと心配になっていると、ぎゅ、と自分達を抱きしめたままだった山茶花が腕の力を強めたのを感じ取った。急にどうしたのだろうか、そう思っていると手を隣にいた澄に取られる。彼女も山茶花も、どこか芹を案じている様な面持ちでこちらを見ていた。


「セリー、大丈夫?」

「ごめんなさい芹ちゃん。あんな目で見られて嫌だよね。

来て早々、嫌な思いさせてごめんね」

「私からもごめんなさい。

……でも、でもね。あのね?  見ての通り、私達によくしてくれてる人もいるんだよ?

あんな人達ばっかりじゃないから」

「姉上、澄ちゃん….」


どうやら姉達は、芹が百鬼一族に否定的な感情を覚えている人間を見て悲しんでいると勘違いした様だ。正確には樒達が気がついたらと苛立っただけで、芹本人は全くこれっぽっちも傷ついていない。これくらいで悲しんだり嫌ったりする程、自分は繊細でも無いからだ。

それに寧ろ自分は……いや、やはり己は図太い性格なのではないだろうか。


「澄ちゃんも姉上もあんしんして。

いろんな人がいるってことを、僕はちゃんとわかってるよ。だから大丈夫」

「……ほんと?  無理して言ってないよね」

「ほんと、だよ。それと姉上。澄ちゃん」

「なあに芹ちゃん?」

「いいかげん恥ずかしいから、離れてくれるとうれしいのだけど……」


本心では抱きしめられている現在の状況を何とも思っていないが、これ以上彼女達の顔が曇るのは好まない。

照れた様な顔を作って見せると二人は芹を離し、微笑ましそうにごめんと謝った。そんな表面とは裏腹に、芹は内心で樒達が茶屋の者達を助けるのを渋った理由について考える。

けれども頭を捻れど、樒をよく知らない芹に答えを出すことは出来なかった。


(ううん……分からないものはしかたないや。あとで聞いてみよう。

人間にたいするしせいは知っておかないと。方向性のちがいでふわが起きたらいけないからね)


思考するのをそこで止めて、話題を変える為に使えそうなものは無いかと辺りを見回してみる。すると周りにいる人達が後ろを見てざわめいていることに気がついた。

自警団、と言う言葉が芹達の耳に入ってくる。やっと自警団が来てくれたらしい、重役出勤かと零したくなる。


「おい自警団来たぞー!」

「やっとか! おい百鬼の、自警団来てくれたってよ!」

「お前ら道を開けてやれ!  通れねえだろ!」


人と人の隙間から、同じ色合いの服を着た集団がこっちに向かっているのがちらりと見えた。恐らく彼等が自警団の者達なのだろう。

背伸びをして自警団を見ようとしていたら、急に手を引かれ思わずたたらを踏む。一体誰がと振り返ってみると、いつの間にか傍に来ていたらしい樒が居た。

自分の手を引いたのは彼の様だ。樒は茶屋の主人とのびている男に肩を貸す喧嘩をしていた片割れの男に向かって何か伝えていた。


「おじさん、悪いが後は任せる。関わったなら最後まで責任を取るべきだが….あまり騒ぎの中心になりたくない。また今度埋め合わせに来る」

「え、ああ。いいんだよ樒くん、騒ぎを収めてくれただけでも有り難いんだ。

それ以上は望まないよ」

「すまないおじさん、感謝する。……お前はそいつを逃がすなよ」

「お、おう……」


端的に話し終えると、樒は掴んでいた手を離して何故か芹を脇に抱え出す。いや何でだ。

……抱えられた方からすると突然されて不思議で堪らないし、腹に腕がかなり食い込むしで本当に意味が分からない。見上げてみても今度は山茶花と何か話していて、割り込む訳にもいかないから余計意味が分からない。

よくよく見たら、山茶花の腕の中には澄が抱えられていた。何故か抱えられているのか澄も分かっていないらしく、同じ様なことになっている芹と目を合わせお互いに目を白黒させた。


(セリー….私達どうして抱っこされてるの….?)

(さあ....僕にもわからないよ……)


声に出してはいないが、今自分と澄の気持ちはある意味一つになっている。だからなのか、目と目で何となく会話が出来た気がした。絶対に言葉が通じた気がする。


山茶花、澄は任せる」

「うん」

「ねえ二人とも、どうして私達抱っこされてる、の゛ぅぉ!?

い゛ったねえいま舌噛んだ! 舌噛んだ!!」


澄が疑問を口にするも華麗にスルー。樒と山茶花は突然走り出して茶屋の裏に回ったと思ったら、なんと地を蹴り宙を飛び屋根に降り立った。

事態についていけない芹は驚き固まってしまったが、自分の中の何処か冷静な部分がこんな時でも舌の心配を出来る澄は凄いな….と、現実逃避の如く尊敬の念を覚えているのを感じた。あと樒が屋根と屋根の間を跳び越える度に腹が圧迫されて痛い。


「あ、の! いま、どこにむかってっ、走っている、のです、か!」

「そ れ ! 姉さんもしーちゃんも何処に行くか位は教えてよー!」


揺れがくる度に言葉に詰まる自分とは違い、横に抱えられている澄はまだ楽な様だ。正直自分も横抱きして欲しかったが、今はそんなことよりも行き先を知りたい。何故二人は急にあの場を離れたのだろうか。


「うーん、何処かを目指して走ってはいないけど….強いて言うなら、人が少ない場所を目指してるかなあ。私達は良くも悪くも目立つから……」


樒に抱えられて前を走っているせいで、山茶花が今どんな顔をしているかは分からない。だがどうしてか、自分達のことを話す山茶花の言葉は悲しげに聞こえた。


幾つもの家屋の屋根を跳び越え降りては走り、ぐんぐんと騒ぎの気配から離れ、ついに芹達は家近くの川岸まで来ていた。川を挟み、まだ実感は薄いが己の家が見える。家を出たのはほんの数時間前なのに、濃い時間を過ごしたせいか随分と前に思えてしまう。


「ここまで来たらもう安心ね….澄ちゃんごめんね、急に抱えて走ったから驚いたでしょ?」

「ううん、最初は舌噛んだしびっくりしたけど正直楽しかったよ! 大丈夫!」


相当楽しかったのか、河原に降ろされた澄は顔を紅潮させて楽しそうに山茶花に感想を述べていた。その姿を見て、山茶花も楽しそうに笑い合う。

一方の芹はと言うと、


「はー….、は────……」

「芹、大丈夫か……?」


ぜえぜえと息を切らし、膝を付いて腹を擦っていた。

何度も中身が出るのではと思った、腹が抉れるんじゃないかと心配になった。振動も圧迫感も無いことに逆に違和感を覚えてしまいそうだ。

樒が悪意を持ってした訳では無いのは分かっている。だがそれでも、一言釘を刺さないと気が済まなかった。

背中を擦って入る樒と向き合い、芹はこれでもかと言うほどに気持ちを込めて口を開く。


「────樒様、よろしいでしょうか」

「もう大丈夫なのか?」

「いえ、大丈夫といえるまではまだ……。

それよりも樒様、おねがいがあります」

「何だ」

「もしまたかかえねばならない事態におちいっても、あのかかえ方はぜったいに、ぜっっったいにやめていただけませんか。……切にねがいます」

「しーちゃんが跳ぶ度にセリー苦しそうにしてたよね……。

あの抱え方は酷かった」

「うん……ちょっとあれは、ね……」


そうこんな事態になることは無いだろうが、必ず起きないとは言い切れない。二度とあの抱え方をされくないと言う気持ちが言葉に宿っていたのだろう。更に山茶花達の追撃も受けたからか、相手の目を真っ直ぐ見てくるタイプに見える樒がどこかぎこちなく、気まずそうに視線をずらした。


「……悪い」

「私も気付けなくてごめんね。

芹ちゃん、お腹赤くなったりスレたりしてない?」

「気にしないでください。

姉上も大丈夫だよ、安心して」


襟元を緩めて確認しなくとも、腹部に痛みも熱も感じない。恐らくその辺りは加減して慎重に抱えたのだろう。芹に言葉で安心したのか、山茶花は安堵した仕草をした。

それでも少し気まずげ見える樒に何ともないとアピールする為に、芹は軽く小走りして樒達の周りを回って見せた。


「ほら、もう走れますし。

僕はまだ若いから、かいふくりょくが高いのですよ」

「若いんじゃなくて、セリーは幼いじゃないの?」

「そうとも言うけど、それを言うなら澄ちゃんもだろう?」

「私はセリーよりはお姉さんですー」

「たったの二ヶ月さじゃないか」

「たったのじゃないよ、二ヶ月“も”だよ」

「僕たちにとっての二ヶ月はとてもおおきいと思うよ?」

「そんなことないもん」

「そんなことなくないよ」

「そんなことなくなくないですー!」

「そんなことなくなくなくないよ?」

「そんなことなくなくなくな……あれ、私何回言ったっけ?」

「ふっ……ふふふ、二人共可愛いなあ」


二人で軽口を叩き合っていると、それが可笑しかったのか山茶花が堪え切れなかったのか、着物の袖で口を隠して上品に笑い出した。軽く吹く秋風に袖と髪を靡かせながら優しくこちらを見る目は、慈しみの感情に溢れている様に思える。

彼女の隣で芹達を見守っている樒の瞳も、どこか柔らかく見えた。これは多分、気のせいでは無いだろう。


「澄ちゃん達は随分と仲良くなったのね、話してて楽しそうだわ」

「うん!  セリーと喋るの、すっごく楽しいよ!

ね、セリー!」

「そうだね……うん、僕もそう思うな」


半日も満たない時間で濃い体験をした気がするが、そのお陰で澄だけで無く山茶花も樒も、家で待っている家族達とも、上手くやっていけると思える自信を持てた様に感じる。


秋ももう終わり頃なせいか、日が沈むのが早い。地上から初めて見る夕日は芹達を茜色に染め上げ、柔らかな日差しが辺りを包んでいく。昼時とは打って変わったその景色に見とれていると、暗くなる前に帰ろうと、樒が声を掛けた。


「日が沈む、今日はもう帰るぞ」

「もっと見て回りたかったけど、暗くなるなら仕方ないね~….。

セリー、また今度改めて案内するからね」

「うん、その時は次こそお茶屋さんに行こう?」

「やったあ賛成! ね、セリーそうしよう?」


笑って提案してきた澄に、芹は笑顔で是と答える。我が家御用達というその味は是非とも自分も味わってみたいからだ。


芹の答えに満足した一同は帰るべく、河川舟運へと足を運びだす。まだ京が栄えていた頃は橋が架かっていたらしい。だが鬼によって一度荒れ果てた現在は壊れしまい、現在民が川を渡る時は舟に乗るのが一般的になっている。

昼に初めて舟に乗った際には、水面の上を渡るという体験に興奮してはしゃいだのは良い思い出だ。


(このまま何事もなくかえるのもいいかも知れない。

でもそのまえに。僕、今日のぎもんは今日のうちにかいしょうしたいタイプなんだよね)


視界に舟が見えて来たところで、芹は一人、足を止めた。横に四人連なって歩いていた筈なのに、一人足りなくなったことに気付いた彼等は一人、また一人とその場に立ち止まる。

どうしたのかと不思議そうに見つめてくる三種の瞳を見回して、芹はゆっくり口元を緩ませた。


「後はかえるだけなのに、止まってごめんね。幾つか、ぎもんがあるんだ」

「疑問? 何のことなのセリー?」

「それはね、……樒様、どうかお聞きしたいことがあります」

「ああ、何だ?」


芹から一番遠くにいた樒が、自分へと振り返る。動作のせいで揺れた彼の耳飾りは、日の光を受けても変わらない青緑の輝きを放っていた。首を傾げてこちらを見てくる澄達と違い、樒は耳飾りと同じでずっと変わらず、芹を真っ直ぐに見つめている。


「樒様はいちぞく以外の、たとえば街の人をどう思われますか?

あなたにとって……しゅにとって、人間はどういう存在なのでしょうか」

「……それは、芹にとって知りたいことなのか」

「はい。僕にはとても、とっても大事なもんだいです」


にこりと笑う芹に、樒は思考を巡らすためなのか、瞳を閉じた。

答えを待つ間、芹は自分がどうして人間に対する姿勢を重視しているのか再認識するために、過去に思いを巡らせる。

 


────産まれて数日も後のある日、父は言った。稲荷ノ狐次郎にとっての豊穣とは、使え司るモノであると。

ここ数百年、鬼が蔓延ったことにより神を信仰する人間は木端なボロネズミと化してしまった。神に祈る余裕も無く、神がどんなモノであるかもきちんと伝わらなくなった。

その結果、人間の信仰心によって成り立つ性質の神達は存在が朧になり、己が何であるか分からなくなってしまったそうな。


『昔、ウカノミタマって言う豊穣の神が居たんだよ。その神の眷属が狐だったんだ。

豊穣の力で人間の暮らしを豊かにする、人間はそれに感謝して信仰する。持ちつ持たれつの関係ってもんだな。

それで成り立ってたのに、鬼共のせいで信仰は薄れオマケに眷属の狐が豊穣神と思われるようになった。

ん? つまり俺は何かだって? 俺は元ウカノミタマの眷属をしてた狐達の集合体……みたいなモノだよ。かつては眷属だったのに今は神だ、狐生は何があるか分からないもんだなあ。

んん?  よく分からないだって?  曖昧で悪かったな。俺自身も鬼神と化してたりしたんだ、詳しいことはよく分からない。知りたければもっと位の高い奴等に聞いてこい』


父本人、いや本神もよく分からないらしい。ちなみにかつて使えていたウカノミタマという神様は、人間に忘れ去られたせいで小さく弱くなり、最後は混合された父と同化したそうだ。


『いいか芹。信仰が自身の存在確立に関わる俺みたいな神にとって、人間との縁は切っても切り話離すことは出来ないモノなんだよ。

人間の思いは馬鹿に出来ない力がある。例え目に見えなくても、確かにあるんだよ』


そう言って父は、芹を神域の一角へと連れて行った。戸を開け放ち覗いて見ると、そこには視界一面を占める程の金、金、金色黄金色。頭を垂れるたわわに実った稲穂達に、幼い芹は感嘆の声を上げることしか出来なかった。あの日の光景は、今でも覚えている。瞳を閉じれば瞼に簡単に浮かぶくらいに。

こんなに美しいモノがこの世にあるのかと、心が満たされる音を聞いたのはこれが初めてのことだった。


『わあ……! とってもきらきらしてて、ぴかぴかできれいだ。すごくきれい! すごい!』


息子のそんな反応に満足したらしい父は、気分良く稲穂と同じ黄金色の尻尾を揺らし、上機嫌に教えてくれた。


『この光景は人間が俺を信仰してるから、俺が豊穣の力を行使し出来て実現してる。凄いだろ?

ぶっちゃけ人間の力なんか必要しない高位の神もいるが….俺みたいな奴には必要だからな。

────地上で生きていくお前は、より鮮明に人間の力を体感するかも知れないし、しないかも知れない。

気分が乗ってるから親らしいこと言うがよ、芹達は人間だけど俺達の血が混じっている。

人間じゃない力を持っているモノだからこそ、ただの人間とどう付き合っていくかはきちんと考えておけよ。人間は未知の力を秘めているのに、未知を恐れる生き物だからな』

『……ぼくにできるかな』

『分からない時は当主って奴に聞けばいいんじゃないか?』

『とーしゅ?』

『芥子が教えてくれたが、お前達一族の一番前に立って引っ張って行く人間のことだとよ。一番偉い立場ってことだろうな、多分』

『とうしゅ……そっか……』

 


彼は、現在の一族の指針となる人間だ。となれば樒と自分は、父にとってかつて仕えた神もしくは豊穣、もしくは眷属の狐達にとっての父……その様な関係になるのだろう。

芹は今のところ、人間はそこまで嫌いじゃない。可能性を秘めた存在である人間を出来れば慈しみたいと考えているが、だからと言って個人的な感情を優先して所属する集団に亀裂を起こす気は無い。彼等とは一蓮托生なのだ、その中でも自分の命を預ける相手である主のお考えを知りたいと自然なことだ。


(だから今後のためにも、樒様のおかんがえは知っておきたいんだよね)


場の空気に耐えられなくなったのか飽きたのか、澄が山茶花を連れて川岸に座り込んだのが視界に映った。二人には申し訳ないが、樒の回答を聞けるまでは待っていて欲しい。


……一分、二分経ったか。視界に少しだけ入っている澄達が三回目の水切りを始めた頃、樒が静かに瞼を開いた。考えが纏まった様だ。


「樒様、もうよいのですか? 貴方がどう思っているのか、お聞かせねがえますか?」

「ああ」


樒の声が聞こえたからか、澄達が手を止めて自分と同じように彼を注目する。無意識なのか分からないが、樒は一度耳飾りを撫ぜてから彼にしては珍しい程に長く、自分の考えを語った。


「俺個人は、人間は守るべき存在だと思っている」

「どうしてそう考えているか、それは俺がそうしたいから……としか言いようがない」

「俺は、一人で出来ていない。人間である母と神である父から生まれ、生活は家族やイツ花に支えられ、生きるために必要な食糧や寝床は作って流通してくれる人達のおかげで得ることが出来ている」

「人間という生き物は、一人一人がすべきことをして支えてくれているから存在出来ている」

「そして、俺のすること。それは人間を守ることだと思っている」

「神に言われたから守ってるんじゃ無い。使命と力を持ち合わせているからそう思っている訳でも無い」

「先述した通り、俺は周りが居るから生きていけているのだと思っている。

……色んな人が居た。俺の為に、全てを整えてくれた人も居た。俺の我が儘の為に、危険を冒してまで叶えてくれる人も居た」

「俺は、そこまでしてくれた人達が誇れる人間でいたい。そう在りたい。

その為に出来る事、それは人並以上ある力を奮って鬼を薙ぎ払い、人も、……神も、守ることだと。そう結論を出した」

「……長々と語ってしまったが、答えになっているか?」


長く喋って口が疲れた、と顔を擦っている樒を見て、芹は心が安堵に包まれるのを感じていた。ああ、良かった。思った通り、彼は自分に合うの感性の持ち主だ。


喜色の感情が表に溢れ出ていたのか、澄がからかう様にコロコロと笑って話しかけた。


「セリーご機嫌なの? 顔がとっても嬉しそう。

しーちゃんの答えはそんなに良かった?」

「まあね。見てわかるくらいわらってた?」

「うん!」


太鼓判を押すかの如く力強く頷かれ、芹は思わず樒と同じ様に顔を擦った。すると自分と同じで山茶花に何か言われたらしい樒とばっちり目が合い、何故か可笑しくなってしまいまた笑みが零れた。


話しているうちに夕日もだいぶ降りてしまった様で、辺りが薄暗くなってきた。そろそろ帰らないとと言う山茶花の一言で、芹達は小走りで舟と走り出す。


「僕のせいで遅くなってごめんね……」

「いいのよ芹ちゃん。大事なことだったのでしょ?」

「そうだよ、大事なことならそっち優先だよ! 

しーちゃんもそう思うでしょ?」

「そうだな」


笑って気にするなと言ってくれる家族に、芹は感謝の言葉を返す。もし帰りが遅くなったことを怒られたら、皆で一緒に怒られよう。明るくそう言ってくれる彼等に、好感が持てた主に、芹はこれからの暮らしを考えるのがとても楽しくなった。

明日は明後日は、一体どんな日々になるのだろう。期待に胸を膨らませながら、芹は皆と一緒に帰路についたのだった。

 

1021年 9月 恒春交神

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〜前回のあらすじ〜

樒「奥義覚えた」

澄「もっと活躍したかった‼︎‼︎」

 

9月です!  今月は恒春の交神をします。

ですがその前に、何故この頻度で交神してるかを話していなかったと思うので、まず理由をお話してから記録に移りたいと思います。最初に説明すべきなのに、忘れていて申し訳ないです(汗)

 

何故こんなにちょくちょくと交神しているのか、それは一族の世代交代を分かりやすくしたいからです。

現在の百鬼一族は、一世代の最年長と最年少の年の差が約一年程離れています。そのせいで世代交代の区切りを付けにくくなってしまったので、世代間を縮めたくて今のペースで交神する様にしました。

今は二ヶ月に一度ですが、樒達の世代からは3ヶ月連続交神、一月間を空けて2ヶ月連続交神と、彼らの世代からはこのパターンでいきたいと考えています。パターン化することで、一年の一族のスケジュールを立てやすくするのも、狙いの一つだったりします。

交神頻度の理由は以上となります。では今月の記録に移ります!

 

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まず最初は芥子のお子来訪から。稲荷ノ狐次郎様との子はどんな子でしょうか?
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男の子!  男の子は母親に似て、女の子は父親に似るという言葉がありますが、この子はどうかな?

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じゃん。

……率直な感想を言っていいですか?  実機でこの子が来た瞬間に思ったことがあるんですよ。この目の下の目張り、これ絶対にお父さんリスペクトじゃん……と。

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画像が荒くて申し訳ありません。

鬼神化していた時のお父上の姿。中央の狐の目元の紅と彼の目張り、似てません?  

天界で狐次郎様に鬼だった姿を見せて貰ったのか、それか彼の神域で目張りをした狐達でも居たのかもしれませんね。いや、きっとお父さんに見せて貰ったんだろう。そういうことにします(断言)

 

名前は芹(せり)君です。春の七草の一つとして有名な植物ですね。

命名理由について。芥子の気持ちで考えてみると、芹って次世代の子達の名前から考えたら、凄くバランスを取れる名前なんです。

どういう事かと言うと、樒と澄の命名理由がこれだからです。

Kさん「傷付けたことを後悔させてやる!毒を喰らわせてやるよ!なーんて強かさを秘めた子になって欲しくて名付けました」

K君「触れるもの全てを刺し殺す!位の鋭い強さを持った子になって欲しくて名付けました」

 

二つの名前を踏まえ、芥子は思いました。毒と棘とは如何なものなのか。その名を付けられた二人はすくすくと曲がることも無く育っているから良かったけど、己の命名にツッコミたくなる気持ちが、毒と棘を緩和させる様な名前にしたいと言ってくる。無視して名付けるのは自分の性分では無理だと。

だ か  ら 芹です!芹は薬草としても用いられることがあるのです。

芥子「薬があれば、酷いことになっても癒せるはず….きっとそう、よね……?」

梔子「命名にも性格が出るなあ」

山茶花「本当ね。私も今のうちから考えておこうかなあ」

恒春(三人とも、名前に分かりやすい意味がある……オレもそういうの考えてつけるべき?)

 

続いてパラメーターを見てみましょう!

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中々に尖ったボーイでは?体と技土以外……いやその前に技火!!!!!初代の技火が!!!!

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これは凹んだ時に撮ったせいで全部低く見えるのですが、バーではなくステータスの技をご覧ください。技火ここにも出てたんですよ……。初代の技土が無いだけマシというべきでしょうか?

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余談ですがこの技火はお祖父ちゃんの頃から現役で表に出てたりしてます。お前のレギュラー出演は望んでいない、降板してくれ

 

閑話休題、話を戻しますね。

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零ヶ月のステータスが無かった為、代わりに一ヶ月のスクショです。

職業はお母さんと同じ壊し屋にしました。芹は体火以外は優秀なので、敏速回復防御面はそこまで心配ありません。しかし体火はやや弱いので、攻撃力が上がりやすい壊し屋職で攻撃力も上げて貰い、バランスの良い敏速タンク兼サブアタッカーになって貰おうと思います。それに芹は技水が高いので、岩清水ノ槌と凄く相性がいいですしね。今は難民なので岩清水ノ槌無いのですが、そこはスルーでお願いします‼︎

 

次は性格の分析といきます。

バーはどんぐりの背比べに見えますが、ステータスで見ると心は火>風>土>水の順になっていますね。

父リスペクトでメイクをばっちり決めていてこの数値……芹は柔和なくせ者なのでは?

攻略本曰く、豊穣の神である稲荷とその御使である狐が名の由来な稲荷ノ狐次郎様。そんな彼を父に持つ影響や母の立ち位置を含めて考えた結果、自分の場合は豊穣の神ではなく使命を全うする為に生まれた自分達一族を率いている当主に仕えて、使命を遂行する存在だと解釈したとか。

 

誇りを持って地に足をつけて己のあり方を肯定し、処世術として使っている困り眉と笑顔で親しみを覚えさせる。それが芹……とか……?現時点での芹の性格考察が濃いことになっている自覚はあります、はい。

好物のお饅頭は天界に居る時によく食べてたから好き、とか?お饅頭ってお供え物のイメージが強いんですよね。狐次郎様は豊穣に関する神様なので、地上で彼を信仰する人達によってお供えされてそう。そしてそのお饅頭がこう、神さまパワ〜で天界の狐次郎様の神域に出されて、それを食べてたんじゃないかな……ちょっとこの辺は小話でいずれ語りたいと思います。

 

樒からよく戦隊物では何レンジャーか表してましたが…ええと、….芹はなんだろう……。グリーンという感じも無いし、イエローでも無さそうだし………

 

 

シルバーかな?

ホワイトは何か違う、ゴールド程のギラギラは無い。うん、しっくりくる。芹は百鬼シルバーで!

こじつけをすると、稲荷のお狐さまって白狐の印象が個人的にあるんです。稲荷由来の狐次郎様のお子だから、そこから連想つけてホワイトとするのは上記した通り少ししっくりこなくて。

それは芹が稲荷、狐次郎様だけから生まれた存在じゃない。なぜなら人間である芥子も混ざっているからです。純粋なホワイト(稲荷神様)では無い。だからホワイトに近いけど少し暗くて違う、シルバーが彼に合っているんじゃないかなと思ったんです。

ややこしいし分かりにくですね、私も言っていて意味が分からなくなってきました

……よし! と、兎に角芹の考察はここまでにします。それでは続きへどうぞ!←

 

 

お次はそろそろ本当に心配な梔子の寿命チェックです。

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健康度は100!素晴らしい!

そろそろ梔子も現役引退ですね……今月は芹の訓練は梔子にしてもらいます
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芹「お手柔らかにお願いするよ、梔子先生」

梔子「おっ、いいなその呼び方!  気に入った!」
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仲良く訓練してくれそうですね。

こちらは現在の百鬼一族達。髪色がカラフルになったなあ。

今月山茶花の成人でもあったのですが、イツ花から特にコメントは無かったので省きました。何かコメントがある場合はじゃんじゃん載せていく所存です!

 

一応もし大江山を超えられたと想定してのスケジュールはこちら

10月     大江山に向けてレベリング

11月     痩せ仁王・太り仁王、石猿田衛門撃破

12月     朱点童子撃破

01月     赤い火が三つ必ず出るので、それを用いて親王鎮魂墓で指南書入手

02月     山茶花交神

 

恒春の交神からかなり間が空くのが気掛かりですが、余裕を持って挑みたいので今のところはこのように考えています。今後の状況次第では変わる可能性は高いです。
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忠心チェック。囲いで分かりにくいですが、恒春の忠心が82に……!

ここは茶器を渡して起きましょう。先月の先行試合で入手した茶碗の一つを渡しました
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今の世代の子達はメリハリをきちっとつける子ばかりなので、ここは神妙な顔で受け取ったんだろうな。

でも恒春にとっての当主のイメージはまだ伽羅が大きい気がする
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8回復。90もあれば上々でしょう!

Q、どうして交神すれば忠心が上がるのに茶器を渡したの?

A、この時上がることを忘れていたからです。ポカしました←

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先月の選考試合であっさりに変更していたから忘れずにしっかりモードへ

それでは今月のメインイベント!交神と参りましょう!

まずはどの女神様と交神するか、です。

ですがその前に少し振り返りを

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成人時のイツ花コメント。

流石は真面目組の片翼を担う男、言うことがしっかりしてる

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恒春の弱いところは技水と土ですね、この二つだけ二桁です。心水と体土も低めですね。

と言うことは水か土の神様か。どちらかの属性の神様と交神したいと思います
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現時点の戦勝点がこちら。今回使う奉納点は半分までの予定です。ですのでぎりお雫様までですね。

もし大江山が無理だったらその後即山茶花の交神をしたいので、その為に半分は取っておこうと思います

それではピックアップした三柱をご紹介します

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エントリーナンバー一番、木曽ノ春菜様。奉納点は低めですが、優秀なその土の素質が是非欲しい
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エントリーナンバー二番、泉源氏お紋様。バーが下がった瞬間を撮ってしまった為低く見えますが、水がどれも良い感じ
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最後はこの中では最高奉納点の那由多のお雫様。火の低さがややネックですが、高いだけあってどれもバーは高め。全体的バーのバランスは一番
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さあ誰にするか……取り敢えず全員と並べてみました

あ、この組み合わせ似合う
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百鬼一族は交神=結婚という意味合いでは無いのですが、この年上のお姉さんと少年の組み合わ良いですね……
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いやこの組み合わせも良い…少年漫画の冒険譚が始まりそう……

 

三人のうち誰にするか、色々悩みましたが……

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春菜様にお願いすることにしました。祖父の代で水神様と交神しまたし、別の属性の方とも交神して寿命を伸ばしたいので。そういう訳で春菜様お願いします!
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恒春「….そう、よろしくね」