そういうもの
「癪に障ります。
好き放題している彼女と、それを野放しにしている貴方様が」
突然の芹の言葉。それを受け和やかに賑わっていたはずの風呂場は、樒達の僅かな動作で起こる湯船の水音だけが、静かにこの場に響くのだった。
いつも通り日課の鍛錬をこなすと、寒い一月であろうとそれなりに汗を流してしまう。この時期の場合、体を拭いて服を着替えるだけで済ませる時もある。しかしここ最近は、鍛錬後に風呂に入るのが樒の中で密かに流行っていた。
このところの習慣に基づいて日課後にのんびりと風呂に入っていたのだが、今日はいつもとは違うことが起きのである。
急な通り雨に襲われたらしい芹達が、自分達も入っていいかと声をかけてきたのだ。
少し前から雨音がしていたなと気付いていたが、どうやらかなり強く降っていたようで。浴室に申し訳なさそうに顔を覗かせた芹はずぶ濡れで、寒そうに体を縮こませていた。
このままでは体が冷えて風邪を引く可能性を危惧した樒は、狭くても良いのならと、共に入ることを承諾したのだった。そう、それが僅か十分も前のことである。
「……癪、か」
「はい。
目に余る、とも思ってはいますが」
大人二人程度まで余裕で入る浴槽で、端と端に座って顔を突き合わせて笑う芹の顔を樒は覗く。
動物の耳を彷彿させる髪型は、雨に濡れたせいで倒れ伏している。毎日欠かさずしている化粧も落とされて、今の芹はいつもより幼く見えた。
だがしかし浮かべる笑みは常と変わらず、柔和に己を見据えている。
「もしや樒様は、まともに手綱を握る気が無いのでしょうか?
それとも、敢えて好きにさせているのでしょうか?
……どんな意図で現状を良しとしているのか、是非教えて頂いても宜しいでしょうか。ええ」
口を挟む隙無く言い切った芹の様子だけでは、深い真意は分からない。しかし漠然とだが、感じ取ったものもある。
(……..これはかなり、言いたいことが溜まってるみたいだな)
そう思わせるだけの迫力と力強さが、芹の言葉には含まれていた。
顔は完璧だが、言葉はまだ取り繕うのが上手ではないのだなと、心の奥底で樒は独りごちる。
これは真摯に向き合わなければ、今後の信頼関係にも響きそうだ。目の前から送られてくる圧を尻目に、樒は冷静に何と答えるべきかと思考を彷徨わせる。
顔に張り付く前髪を後ろに撫でつけて、柵越しに見える窓の外に視線を流す。前方を向いたままだと、誰かさんがずっと笑みのまま見てくるので言葉の整理がやり難い。
僅かに見えるガラスの向こうは、重暗い曇天の色。はっきりと視認することは叶わない。
(ああ、そうだ。あの日もこんな天気だった)
あの日、今月の討伐から帰宅した日。あの時も今のように、雨が降っていた。
「樒様、皆様お帰りなさ……って、わ、ェえ!?」
「ただいまイツ花。二人とも、後は任せた」
「……」
驚くイツ花に雑に言葉を返して姉にソテツを任せると、樒は髪から水が滴り落ちるのも気にせずに腕を引いて大股で廊下を歩いて行く。
帰路の途中で降り出した土砂降りの雨。もう少しで家に着きそうだからと雨宿りもせずに濡れながら走ったせいで、指先が冷えて感覚が鈍い。
だがそれよりも、今の樒はぐつぐつと煮えたぎる心の音がうるさくて熱くて。そんなことは気にも溜まらかった。
「————は、はい。お帰りなさいませ……?」
「はあい。
ソテツちゃん、雨に濡れて体が冷えたでしょう? お風呂に入る?」
「..…ああ」
「あの、….か….……う….?」
戸惑うイツ花や山茶花達の声が、速足で歩いているせいでもう囁く程しか聞こえない。
掴んでいる腕の主は何も言わず、俯いて静かに着いてきている。
..…….ほんの一月前の彼女と比べて暗くなったその姿に、何故だか今すぐ髪を掻きむしりたい衝動を覚えた。誰が彼女を、澄を、こうしたんだ。
「適当に座れ」
「……うん」
自室に入ると腕を離して、樒は襖を閉めた。
座る澄に背を向けて押入れを開けると、膝をついて下段に収納されている箪笥から手ぬぐいを二枚取り出した。
「そのままだと冷える。これで拭け」
「あ、……うん。ありがと」
澄に手ぬぐいを渡すと、此方と視線を合わすこと無くのそのそと髪を拭きだした。
よくないことをした自覚があるからこっちを見ないのだろうか。苛立っているせいで眉間にしわを寄せたくなるが、そうすると怖がらせるかも知れない。
樒は静かに息を吐き出して、水を吸って重くなった鉢巻と組紐を取り、雑に髪を拭って気を紛らわせた。
枯れ果ててしまった自身の花に当たらぬ様に、慎重な手つきで毛先の水分を手ぬぐいに吸わせている。そんな澄の前に座ると、樒はなるべく普段通りの声音を意識しつつ、此処まで連れてきた本題を持ち出した。
「……どうして朱ノ首輪を無断で持ち出した」
「……」
座らせて澄の顔を覗きこむ。問いかけをを受けて、彼女はぎゅっと下唇を噛みしめて俯いてしまった。
乱れた心情のせいで更に言葉を募りたくなるが、樒は拳を強く握ることで耐え堪える。ああ全く、こんな時はどうすれば良いのだ。
(気まずそうな姿を見るに、恐らく俺が怒っているのはわかっている可能性は高い。
精神が不安定な人間の対応なんて、生まれてこの方まともにしたことが無いと言うのに……。キツい言動をしなければ良いのか? この対応は適切なのか?
澄を追い詰めてなければいいが……)
頭を悩ませつつも、樒は何も言わない澄に再度声をかける。
見た目も中身も年相応はあると自負しているが、それでも人生経験は呪いの無い人々と比べるとかなり浅い。それ故に対応が適切かどうか、どうすればいいのかと悩んでしまう。
「……」
「澄、教えてくれ」
樒の催促を受けて、澄は手ぬぐいを掴み更に小さく縮こまる。
「…………」
「澄」
これ以上何度も声を掛けたら萎縮してしまい、何も答えてくれない可能性もあるのでは。そう考えた樒は一歩後ろに下がり、静かに澄が口を開く時を待った。
「.………が、……….の」
「? すまん、もう一度言ってくれ」
体感で一分、いや数分は経った時のこと。
このままでは埒が明かないと観念したのか、それとも腹を決めたのか。澄は痕の残る首元を触りながら、下を向いて畳に目を向けたまま、少しずつ理由を話し始めた。
「力が、欲しかったの」
どこを見ているか分からない仄暗い表情で、澄は畳に置いた手に力を込めて握りしめる。
「強くね、なりたかったの。あいつに負けない、今度こそ届く手段が、射れる技が、欲しかったの」
「……….だから勝手に持ち出したのか。どうして俺……いいや、せめて誰かに相談しようとしなかったんだ」
静々と、淡々と。澄は理由を話していく。
それを聞いてどうして、何で。朱ノ首輪は強力だが危険な代物だと知っていただろう、二人一緒に先代や芥子達に習っただろうと、胸のうちに溢れる沢山の言葉を、樒は何とか喉元で飲み込んだ。
「……ごめんなさい。そんなこと、思いつかなかった」
本当にその発想が無かったのか、澄はぱちくりと大きく瞬きをして目を見開いた。しかしその顔は直ぐに歪み、下手くそで引きつった笑顔を浮かべて樒の方に視線を向ける。こちらを見ても、それでも彼女は未だに目は合わせてくれない。
「最近ね、私本当に変なんだ。気が付けば朱ノ首輪を持ち出してて……討伐に出てて。いつの間にか、首輪を着けていたの。
……..ごめんね、意味わかんないよね」
ごめんなさい、自分でも可笑しなこと言ってるってわかってる。でもね、本当なんだ。
言いながら目に涙を溜めていき、堪えきれなくなったのか澄はまた下を向いて水を零す。
樒は出そうになったため息を呑み込んで、出来るだけ優しい声でそうかと頷いて返した。
(梔子の死と、朱点童子の正体と、解呪出来なかった事実。特にこの三つが大きく起因していそうだが……….いや、それは今はいい。
情緒が乱れているせいで冷静さを失い、視野が狭まっている。澄がこのままだと、いつ致命的な事態に陥っても可笑しく無いだろうな……)
さてどうしたものか。粗方拭き終えた髪の具合を見ながら、樒は脳みそを回す。
こうやって解決策を考えるのは、もうしでかしたことに怒り続けるより生産性がある気がして、少し気持ちが落ち着く。
「ふ、ぅ….っ、ごめん、樒。ごめんね……ごめん、なさい」
「…………いい、謝るな。目が腫れる」
持っている手ぬぐいのまだ乾いている部分を使って、ぼろぼろと泣きじゃくる澄の涙をそっと拭う。
……どうすべきか考えたいが、目の前で泣いている妹を無視するのは良心が痛むというもの。己の中で少しずつ少しずつ苛立ちが萎んで、それよりもずっと泣かれて困るなという思いが優っていくのが分かる。
「自分でもね、最近の自分が可笑しいってわかってるの。ダメなことしてるって。
だけど、どうすればいいか、わからないの。どう、すれば、元の私になるのか、わからないの」
持っていた手ぬぐいを握りしめて困った様に眉を下げると、でもねと、澄はぽつぽつと心の中で渦巻いて暴れ狂っている感情を教えてくれた。
「馬鹿みたいに解くことが出来るって信じてた、あの頃の私を思い出すとね?
苛々して、胸の中がどろどろして、腹ただしくて堪らなくなるの。……そんな馬鹿で愚かな私だったから、私はこうなってしまったのに」
はは、馬鹿みたい。口元を歪めませて、澄は自重の笑みを浮かべる。
もうこれ以上自分を苦しめる言葉を吐いて欲しくない。しかし、彼女は今吐き出すことで、気持ちの整理をしている様に見える。もう少し、様子を見よう。
「あたりまえだけど、あの頃の私は、将来こんな風になるなんて知らない。
だから馬鹿みたいに毎日楽しそうにして、幸せそうに笑って、ありもしない未来を考えて……….ねえ、わかるでしょ。見てよ、今の私!」
胸に手を当てて高らかに声を上げると、澄は涙を流しながら壊れた様に笑う。
その姿はとても、とてもかつての彼女では想像もつかない程に、悲しみにまみれていた。
「こんな酷いこと思う人間じゃなかったのに! こんな自分勝手でみんなを危ない目にする人間じゃなかったのに! 可愛いね、綺麗だね、素敵だねって言って貰えた花も枯れて! こんな、こんな、恐ろしい顔してなかった筈なのに!
変わったの、変わってしまったの、あのヘラヘラ笑ってた馬鹿みたいな私は死んじゃったの!」
髪を振り乱して喚き、堰き止めることの出来ない涙がぼたぼたと零れ落ちていく。
「あは、あははっ、馬鹿みたい、ほんっと馬鹿みたい! 気持ち悪い、気持ちわる! あは、あっははは……ッ!!」
ひとしきり笑い終えると、今度は気落ちした様に肩を落として、澄は手で顔を覆った。
まるで躁鬱の様な妹に、樒は何と声を掛ければ良いかますますわからなくなってしまうのだった。
「理不尽なことを、考えてしまうの。
何も知らずに生きている全てが憎い。自分以外の、楽しそうに笑っている人全てが嫌なものに見えちゃう。
こんな酷いこと、前までちっとも思わなかったのに。変わりたくなんて無かったのに……」
どうして、どうして。枯れることなく流れる涙。
樒は己の服の裾を使って、今度は荒く涙を拭いた。
「ぅ゛わッ、し、樒……!」
慌てながら自分の名前を呼ぶ澄に、そういえばと、気になっていたことを問いかける。今問いかけるのはどうかと少々ためらいはあったが……話題を変えることによって、彼女の気を紛らわせることが出来るかも知れないのだから。
「呼び方」
「ちょっといた……え?」
「俺や芹達の呼び方。どうしてあだ名で呼ぶのをやめたんだ?」
拭いていた手を引いて問い掛けると、澄は気まずそうに目を伏せた。
「……だってもう私は、馬鹿でヘラヘラ笑っていたあの頃の私じゃないから。
あの頃みたいに呼んだら、幸せだった時のこと思い出して、でも自分は変わってしまたって再認識して、……悲しくなるから」
だからやめたの。そう言って澄は、寂しそうに笑った。
こんな時、直ぐに上手いことを言えない自分が憎たらしい。ほんの少しでも彼女の心が軽くなればいいと、樒は柄でもないが、おそるおそる澄の頭を撫でた。
「……樒って、こんなことする人だったんだね」
「らしいな」
そんならしからぬ行動を、澄は僅かに目尻を細めて受け入れた。
ほ、とこっそり安堵の息を吐く。樒は撫でる手を止めずに、今の自分が彼女に何が出来るのか、目を閉じて思考を回した。
(今の不安定な澄に、安易な共感や同情は返って悪化を招くかも知れない。
人を慰めたことも優しい言葉も得意じゃないが……だからといって泣いている澄を無視する程、俺はもう情に薄く無い。出来るかぎり側に居て、支えよう)
だがその前に、一つだけ言いたいことがある。澄の発言のある部分が無視出来ない。それについて言及したら支えだそう。
決意を決めて目蓋を開けると、樒は澄に声を掛けた。
「……澄、言いたいことがある」
「え、なに?」
樒は寡黙なせいで大人しい人間だと勘違いされ易いが、実はそんなことは無い。
昔はそこまででは無かったが、成長するに連れて我が強くなり、今や家族を傷付けられると心の火山を大爆発させる様な男に成長したのだ。
故に大江山のあの時、自分達を愚弄した黄川人にかなり苛立っていたりもしたが、その話はまたいつか。
「お前は傷付いんだ….し、悲しんでいるんだと思う。
悲しくて辛いから、周囲に目を向ける余裕が無くて、だからどんどん悪い方へいってしまている……のだと、俺にはそう見えた」
この言い方が適切なのかわからないせいで所々詰まりながらも、樒は彼女に向けて己の思いを伝えていく。
「悲しい、辛いと思うのも、それは別に可笑しなことじゃない。酷いことでもない。その感情は、誰しも持ち合わせてるものだ。間違いじゃない」
言いたかったことを言えて、樒は若干の達成感を覚える。これだけはどうしても伝えたかったのだ。
「……….こんなに苦しいのに?
叫びたくなって、全てぐちゃぐちゃにしたくなるくらいの激情に駆られるのに?
それなのに間違いじゃないの? ……前までの私は、こんなこと思わなかったんだよ?」
「ああ。その感情はみんな持ってるものだ。もし暴れたくなったら……時と場所を考えてさえいれば、好きにしたらいいだろう」
「….そういうものなの?」
「そういうものだろ。
俺が良いって言っているんだ。文句がある奴がいたら、意義があっても押し通してやる」
これでも当主だからな。かつてここに居た彼等を参考に、わざとふざけて樒は場を茶化す。
その姿が可笑しかったのだろう。澄はやっと、本当に久しぶりに、くすくすと声を上げて笑い声をあげた。
「そっか。……へへ、うん。そっかあ、それなら、仕方ないね」
赤く腫れあげた目元や、萎れた花や首の痣は変わらず痛々しい。だがそれでも、この子は笑顔は愛らしいものだ。
ころころと笑う澄の顔の前に手を出す。なあにと不思議そうに首を傾げる妹に向かって、樒は勢い良く額を弾いた。
「あいだっ! 何するの!」
「ただし」
痛かったのか涙目でこちらを睨む澄の言葉を無視し、樒は語気を強めて指を立てた。
「今言った通り、時と場所は選べ。
今回の討伐も先月の大江山も、一歩違えばお前やみんなが危険な目に合っていたかも知れないんだ。
だから次何かしたくなったら、必ず誰かに言え。いいな」
「……….うん、ごめんなさい」
首を振って、澄は肯定した。
長く話していたせいで、濡れて冷えていた体はなお冷たくなっている。
心が弱ると体にも影響があると言う話を思い出した樒は、再度襖を開けて箪笥から厚めの上着を取り出すと、澄の肩にそっと掛けた。
「次から気を付けるならいい。
今日はもう疲れただろう、冷えただろうし早く休め」
手を引いて立ち上がらせると、樒は障子を開けて促した。
澄は掛けられた上着の礼を言った後にもう一度謝ると、廊下に足を運んだ。
「……‥澄、」
「なに?」
部屋へと帰ろうとする澄が振り返る。敷居越しに顔を合わせる彼女に対し、樒は最後に一ついいかと話しかけた。
「もし他の奴がお前が付けたあだ名を呼んでいたら、それも思い出して辛くなるのか?」
「え……?」
「教えて欲しい」
澄はううんと唸り少し考えた様子を見せるが、直ぐに答えがでたのか、首を振って大丈夫だと口にした。
「ちょっと複雑だけど……でも気に入ってくれてるなら勿体ないし、他人事は他人事だって区別はちゃんと出来るから。そこは大丈夫だよ」
「そうか。……わかった、ありがとう」
「ううん」
「呼び止めて悪かった、早く着替えて休んでくれ」
「うん、樒もね」
それじゃあね。澄は二度三度軽く手を振って、自室へと向かった。
樒も討伐後の後処理や家族の様子を見るために、部屋を後にするのだった————————
あの時のことを振り返り終えると、樒は静かに目蓋を開き芹を見据える。
静かに怒気を醸し出す彼に、変に繕った言葉は下策だろう。この狐は自身が化けの皮を被るのは好むのに、他者が、特に俺が繕うのは、好みじゃない様だから。
「二度に及ぶ澄の問題行動の件は、お前の言うとおり俺が手綱を上手く握れていなかったせいだ。
そのせいでお前たちを危険に晒したのは、申し訳ないと思っている」
すまなかった。浴槽内なので僅かに頭を下げることしか出来ないが、それでもしないより良いだろう。
一、二、三……数字を数え終えると、静かに頭を上げる。自分を見る芹の視線に、変化は無い。じっとこちらを見ていて、まるで続きを促している様だ。
「当人には既に厳重注意をしている。何かしたい時は誰かしらに相談する様言い含めたし、討伐時は出来る限り俺の手が届く範囲内に居させる。
もし澄が相談してきたら、聞いてやってくれ」
「……それは、命令でしょうか」
値踏みする目を向けたまま、芹は質問を返す。
そんな慇懃無礼な彼の様子がツボに入ってしまったのか、ついつい面白くて。張り詰めた空気と瞳を気にせずに、樒は表情筋を動かした。
「いいや、これはお願いだ。
どうするかは、お前の好きにしてくれ」
肩を震わせて返答すると、そんな樒の様子に気が抜けたのか、芹は小さくため息を吐いた。
「……はあ、わかりました。僕の好きにしますよ。
貴方様が何もしていない訳では無いとわかりましたし……ね。
無礼な物言い、お許しください」
「別に気にしていない。俺はお前のそういうところを嫌っていない」
寧ろ面白いと思っている。そう伝えると、芹は樒様こそ面白いですねと口元に手を当てて笑った。
二人して笑って和やかな空気に浸っていたと言うのに。突如、二人共横殴りのぬるま湯飛沫を浴びせられる。
「わ!?」
「ッっ!!」
芹と共に飛沫が飛んできた方向、洗い場を見やる。そこには身体を洗っている途中のソテツが、起怒った顔でシャワーを向けていたのだった。
「お主らなあ!!?
そういう話は二人きりでしてくれ!! 一人気まずかったではないか!!」
「ごめんねソテツ」
「俺たちのことは気にしないで良かったんだが」
「我空気読める子だから。樒の返答を待っていたせいで体が冷えてしまったぞ!
どうしてくれる!」
元気に主張するソテツに、悪かったと謝罪を口にする。本当に無視してくれてよかったと言うのに。
自分はもう大分温まった。体が冷えたなら、ソテツは一度湯船に浸かるべきだろう。
樒は立ち上がって湯船を出た。
「俺はもう上がるから、冷えたなら湯船に浸かっておけ」
「おや、宜しいのですか?」
「ああ」
壁に掛けていた湯上り手拭いを使って体を軽く拭いて、腰に巻く。
ああそうだと、浴室から出る前に、忘れていたことを思い出す。樒はくるりと振り返り、口を開いて二人に声を掛けた。
「……二人共」
「なんだ?」
「如何致しましたか?」
「長風呂して、逆上せるない様に。セリー、ソテッちゃん」
「……!」
「樒、そなた今……」
初めてあだ名で彼らを呼んだせいか、芹もソテツも驚いた顔に表情を変えた。
それを愉快に思いつつ、ふと、樒は窓に目を寄越す。通り雨はもう過ぎ去ったみたいで、日差しが顔を覗かせていた。
止まない雨は無い、と言うことか。なんて独りごちて、樒は浴室を後にした。
1022年2月 山茶花交神
え、もう!? もう8ヶ月!?
私の中で澄ちゃんは2ヶ月くらいで時が止まってる……もう大人なんですね……
ここ数ヶ月、彼女は色々あったのでこのコメントを純粋に受け止められない自分がいます
深読み考察民の私が顔を出してしまう……
長所を伸ばして己よりもっと強い子を望んでる? それは何のため? ただ純粋に思っているのか、それとも……
いったいどういう意味でこの言葉を…………(深読み考察民)
みんな覚えてる! 前回巻き物をゲットしていたのでそれを覚えたのでしょうね
ありがとうイツ花。今度確認しますかー
今月か来月かあ……早すぎるでしょ….
芥子が弱り出したのは先月、最悪の年末の次の月。梔子が亡くなったのに続いて弱る家族を見て、周囲も芥子本人も、やっぱり呪いは解けていないんだと再認識していそうですね。闇かな?
今月もお薬を….と思いましたが、朱ノ首輪を着けていたせいで澄ちゃんの忠誠心が低めに
ここは茶器をあげておきましょう。ゲーム内的には樒が元気付けるためにプレゼントしたって感じでしょうか
これは書いていて思ったんですが、澄ちゃん女の子だからあげるのは香炉のが良かった気がしてきました。後の祭りすぎる
自分のために生きていいんだよ;;;;;
ダメだ、もうどんな言葉でも澄ちゃんの発言に闇を感じてしまう。これはアカン
こう思ってしまうのはなぜかと言うと、大江山を越える前までの彼女は結構自分のしたいことやりたいことのために戦ってたんじゃないかな〜と私が認識しているからなんです。
もちろん澄ちゃんに一族悲願だから、という思いが無いといえば嘘になります。だけどそれは将来呪いが解けたらみんなで遠くへお出掛けしたい、ゆっくり大きくなっていく姿を見て貰いたい、一緒に何回も年を越していきたい……みたいな、現在を生きるこれからの自分たちへの思いと比べたらその気持ちは弱かったと思うんです
誰よりも未来を望んでたからこそ、その未来に居る筈だった父がいなくなって姉も遠くにいってしまう現実に一番打ち拉がれている……みたいな….
今の澄ちゃんは、何をすれば良いか分からなくなってるんだろうな。分からないけど、弱いままだと何も出来ないから、個人的には力が欲しい。でもそれ以外何をすればいいかもう分からない。だから取り敢えず一族のために頑張ろう、それはきっと間違いじゃない筈……と。
樒「……そんな気負うこと言わなくていい。好きにして良いんだからな」
澄「当主様に下賜して頂いたんだもん。ちょっとカッコいいことを言ってもいいじゃん」
次回あたりで澄ちゃんの心境の変化等の小話予定。そこで詳しく書くのでお待ちください
芥子はお薬を。元気でいておくれ〜
千金人参だとそこまで回復しませんね……そろそろレベル上げるべきだな
これを……
こうじゃ!
約4万宗教部門と公共部門に投資してレベルを上げました。これで少しはいい漢方が手に入ることでしょう!
さて、今月は山茶花の交神です。本当は先月の予定でしたが双子が生まれそうだったので……奉納点を双子が生まれるラインにしたり呪い与えたり、朱点くんほんとイイお仕事しますね
1歳1ヶ月。交神するのに丁度いい年齢ではないでしょうか
遂に山茶花が交神……三世代末っ子が交神、感慨深いものがありますね
山茶花は末っ子だしおっとりした可愛い子なので芥子と恒春がすごく心配してそう。可愛い妹が遂に母になるとかびっくりですよきっと
最後に樒にツッコミを入れて貰う一枚絵の描きやすさといったら。ありがとう樒!
朱点くん討伐記念にお上から奉納点を頂いたので、最高でヨミ様まで交神が出来ます
しかし全部投資してしまうと次の樒たちが困るので、も少し下の方と交神です
交神の前にパラメーターをチェック
山茶花は体はいい感じですが、心は低めですね。心火と風、技水が低さが特に気になるポイントですね
お相手候補はこの4柱様たちです
一番手は岩鼻様。その高い心火と風が欲しい。お値段がリーズナブルなのが高ポイント
お次は大吉様。ギャンブル要素が有りますが高い心火と技水、欲しいのもが揃っています
三番手はみんな大好き福郎太様。1万点を超えますが全体的に高い素質を持っているところがポイント高し
最後はこの方田衛門様。奉納点に見合う高い素質と土の神様ですが火も高いのが魅力的
誰にするか迷いましたが、最終的にはこの方で決まりました
じゃん、岩鼻様です。同世代の他の子達が低くて3千〜6千点代なのでそれに合わせ、かつ心の素質が高めな岩鼻様に決めました。
山茶花の子は前衛職になることは決めているので、体の素質も良い岩鼻様に決定です
山茶花「こちらこそ、よろしくお願いします!」
1022年1月 親王鎮魂墓
朱点童子を倒したと思いきや黄川人復活、これで呪いが解けると思いきや非常にも梔子は逝去、天界は百鬼家の空気と反比例するかの如くやんややんやの大騒ぎ
だけど何があっても腹が減っても明日は来るということで、やってきました一月です!
まずは大江山越え後のはしゃぎ様のせいで、一族と溝が出来てる疑惑濃厚なイツ花の報告からいきましょう
選考試合かー….今別に褒美の品を欲していないですし、髪切るまで褒賞はしょっぱいからどうしようかな
大江山直後は迷宮内のアイテムが増えていて回収したいので、今回はやめておこう。見送り決定!
梔子の最後のお仕事。成果は……!?
やだ数値たっかいわぁ(謎のオネェ)
あの二人は性格的にも相性良さそうでしたしね。梔子の教えをするする素直に吸収していくソテツが目に浮かびます
ついにソテツが実戦入り! 当家初の拳法家の活躍が楽しみです
さて次は全員の忠心チェックを……
……え゛?
芥子この健康度はいったい??
え、嘘でしょもう減少するの? ていうことは残り一ヶ月か二ヶ月しか生きないの?? マジで言ってる???
そう言えば先々月の出陣時に体力の上がりがあまり良く無かった様な……
こちら十一月に芥子が成長した時のスクショ
体の上がりひっっっっっっく。いやこれを見た時から芥子の寿命はもしかしたら短い?って思ってはいたけどそれでも早すぎでしょ
いま芥子が一歳六ヶ月だから最短寿命の可能性がある……? ありますよね……(自問自答)
天運どうなってんの? 大怪我したり病に罹ったから寿命が早まった訳ではない、てことは遺伝子的なやつですよね….この寿命は
ここ最近亡くなった伽羅(一歳十一ヶ月)も梔子(一歳九ヶ月)結構長生きだったからショックが凄い。健康度チェックする気ZEROで一族欄開いから
若者達の様子もチェック。みんな元気だねよかったよかった
とりあえず漢方を飲んでもらいました。安静にしててくれ〜〜
梔子は隠したけど、芥子はちゃんと体調を報告しそう。自分はそろそろみたいだって。ただ言う状況は考えて報告してそうではある
芥子「最近体調があまり良くなくて。……もって数ヶ月でしょうね」
樒「……そうか。体に変化があったら直ぐに教えてくれ、無理はするな」
芥子「ありがとう樒。みんなにも自分で追って伝えるわ」
樒「ああ」
メンタルやばそうランキングTOPにいる澄ちゃんや、一緒に戦ってきた恒春や山茶花には伝えるのに時間がかかりそう
逆に息子の芹にはさっと伝えてるイメージがある
今月は出陣したいと思います!
以前一月は山茶花の交神をしようかなと言っていましたが、実はいま山茶花が交神すると双子が産まれるんですよね……
流石に六流を回せる度量が私には無いので、戦勝点をイジる為にも今月は出陣に変更しました
メンバーは樒、山茶花、澄、ソテツの四人です。ソテッちゃんは初陣を頑張っとくれ….澄ちゃんは気分転換にお外出ようね……
樒「は?」
澄「……」
山茶花「そんな….」
ソテツ「三つか。敵は迷宮の大売出しでもしているのだろうかなあ」
樒「いい迷惑だな」
ソテツ「ははは! 確かに樒の言う通りだ!」
この三ダンジョンが来ると一山越えたんだな….としみじみ感じますね
今回は大江山越え後の確定赤い火を利用して大筒士の指南書を取りに行こうと思います。レッツ親王鎮魂墓〜
澄「お前は!!」
樒「落ち着け澄、止まれ」
山茶花「澄ちゃんダメだよ、落ち着いて!」
いまの澄ちゃんは黄川人ブッ殺ガールと化している。全員からステイステイされていそう
ほうほう、その心は?
な、なんだってーーーー!?(棒)
私はプレイn週目なので知っていますが、樒達にとっては衝撃の真実でしょうね
樒や山茶花は天界を信じ切って無かったからそこまで動じなさそう。ソテッちゃんはまだ何か思う程の感慨が無さそうなのでふーんと聞き流してそうですね
問題はちゃん澄ですよ。なんでみんな彼女が曇る方向性のことばっかするん?
黄川人くんや、この子つい一ヶ月前の山越え直前までは君を助けようと純粋な眼で思ってたんだよ?
いまの澄ちゃん見て? 主に誰かさんのせいで濁ったんだよ、いやあいったい誰のせいなんだろう。ほんと……(遠い目)
言いたいことを全部告げたら去っていくスタイルは変わらない黄川人BOY
そういうとこは嫌いじゃないや嘘この空気どうにかして。いややっぱいい何もしないで!?
彼はかき乱すだけかき乱してポイするタイプだと私は思っているのはここだけの話です
赤い火は前半に一つ、後半に二つ。これなら指南書のある部屋まで余裕を持って行けそうですね!
まずは朱点童子戦であっさりにしていたモードを戻して….
続いては……はい。ちょっと澄ちゃんに朱ノ首輪を着けて貰います
今回忠心が下がっていた恒春や芹じゃなくて、彼女を連れてきた大きい理由がこれです
大江山を越えて敵も強くなりますし、こちらもパワーアップしたいと思いまして……それで一族内で唯一彼女だけが、首輪を着けたら奥義を覚えられるんですよ
私が指示したことだけど、ゲーム内では誰かが首輪を持ち出したことになりますよね。誰かな.…澄ちゃん本人だろうなあ...…黄川人に手も足も出なかったことと父の死が決定だになって取り出したのでしょう
11月の出陣前の小話で、梔子たちは後のことを考えて朱ノ首輪を入手して。
それをもう使うことになるなんてね….
力が欲しい。誰にも負けない力が欲しい。そのために朱ノ首輪に手を出した。赤黒い気味の悪いそれを首に着けると、何かが満ち溢れていくのを感じる。だけどそれと同時に、声が、聞こえた。
声が、声、が、声、声、声、声声声声声。お前のせいだ、お前のせいだ。誰かが私をなじる声。どうして、どうして。誰かが私を恨む声。死にたくなかった、死にたくなかった。知っている私を怒る声。
様々な人の怨嗟が頭に流れ出して、咄嗟に耳を塞いだ。その時、乾いた感触が手に当たって。私は戦闘で使うために持ってきていた宝鏡で、何に触れたの確認した。鏡に写っていたのは、酷い顔をした私と…………
みんなが綺麗だね、可愛いね、素敵だねと言ってくれた母とお揃いの花が枯れ果てていた。瑞々しく綺麗だった私の花は、萎れて茶色の残骸と化していた。
鏡に写る私の口端が歪に持ち上がる。響く怨嗟は煩わしく、見える己は酷い顔。こんなの、笑うしかない。
笑い声で気付いたのか、ソテツが私の顔を覗きこんだ。顔を引き攣らせて何か言ってる。ごめんね、頭の中が煩くて聞こえないの。
樒と山茶花姉さんも駆け寄ってきた。二人は私が着けているモノを知っているから、首元を見てとても驚いた顔をした。そして樒は目を僅かに見開いて、山茶花姉さんはそっと目を伏せた。
心配そうな顔をしているソテツに姉さんが何か言ってる。この首輪のことかな。樒は私を見てぱくぱくと口を動かした。何を言ったんだろう、ごめんね。全然聞こえないの。
たまに混乱じゃなかったですっけ!!!??
朱ノ首輪の効果って技を上げる代わりに呪い&たまに混乱でしたよね。たまにじゃないの!? 悪い方ひいちゃった!!??
絶賛シリアスですが、そんなの関係ねぇとこの空気で進めていきたいと思います。私 暗い ふいんき× ふんいき〇 ニガテ
ソテツの初進言。優しさに溢れてる….澄の状態異常治してあげようとしてるの優しい……
あと恒春といい澄といい山茶花に鏡進言する子多いのが面白い。前に立って私がみんなを守る盾になる系少女ってかっこいいから仕方ないよね、その気持ちめっちゃ分かる
経験値足りんかった……
ごめん澄ちゃん計算ミスった、一回の戦闘で覚えられると勘違いしてた。ごめんよ……
ソテツは風と土の上りが良いですね。心の上がり方が解釈に合う(?)
土葬が止まりました!!これはゲットせねば!
ソテツいい!!ナイス回避!!
これは急がないとトラウマが生まれるかもしれない……
この時はとにかく〇ボタンを連打して攻撃を急かした思い出
とどめは山茶花に決めて貰って……
勝利です! 土葬ゲット!
成長のギリギリを見極めきれないプレイヤー。つ、つぎで奥義を覚えられるはず……!
ソテツは技土の上がり何があった? 9→4て。なあ、なんで技土亡くなるん?(節子風)
雑魚散らしに定評のある樒。闇の光刃が似合う男
ああああ澄ちゃん不調……
あと一撃で倒れるはず! やってくださいソテツさん!!!
いいぞ! 戦闘終了です!
ついに!!!!
百鬼家二つ目の奥義! 連弾弓澄!!
さらに!! 澄貫通殺!!!
一度に二つ覚えるなんて……澄ちゃんの底力凄い
ソテツもレベルアップして良きですね! 心火<心水の上がり方なのがちょっと以外。賑やかで溌剌だけど冷静に物事を見れるタイプなんですかね
忠心が71に……
樒「ふんっ」首輪を無理矢理取る
澄「……ぁ」
樒「奥義を二つも覚えたんだ。もういいだろう」
澄「うん……そうだね。ありがと、樒」
樒「……俺は何もしていない」
ソテツ「……」
山茶花「澄ちゃん、大丈夫……?」
澄「だいじょうぶだよ。呪いの首輪なんて言われてたけど、大したこと無かったよ。平気!」
親しみを込めて愛称を付けてくれた、表情が直ぐにころころ変わる愛らしいあの女の子は、もうどこにもいない。
後半の赤い火が近くなってきたので、そろそろどっぷりモードに
まだ赤い火では無いですが、大江山越え後で新アイテムが多いからか普段通りでも沢山ドロップしました。嬉しさしかない
それと地味にソテツの技土が復活。どういうことだってばよ……
いやあ換金しがいがあるドロップですね!!!(歓喜)
ソテツは体は風>火>土>水 っぽいですね。拳法家なのでどんどん早く硬くなっておくれ……
……地味にここまでの省略した戦闘も含め、ソテツ君一度も樒に鏡を向けないんですよ
いやかねてから樒の鏡向けられなさ具合は定評があったけど……これは樒を認めていないのか?
もしかして澄が朱ノ首輪を使ったことに何も言わなかったから? 仲間をそんな目にあわせてまで強くなりたいのかと不満に感じているとか……? ううん……ちなみに今月はこの後も一度もソテツは樒に鏡を向けません。要考察ですね
あっソテツの心火が死んだ!
ソテツって明るくて周りを盛り上げる鼓舞するタイプだけど、熱い男では無いんだろうな……
その辺はall火の男な樒とは違いますね。彼は多くを語るタイプじゃないですが、滅茶苦茶熱い人なので
きた!!!! 筒の指南!!!!!!
逃がしたくない時は双光樒斬!! 逃がしたくない時は双光樒斬!! (大事なことなので二回言う)
キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー樒ありがとうーーーーーー!!!!!!!!
筒の指南ゲットです!!!! 今月一番はしゃいだポイントがここでした
さーて赤い火はまだ灯ってますし、どんどん狩りますよ!
ツブテ吐き欲゛し゛い゛ よ゛こ゛し゛て゛(最早盗賊)
私知ってる。双光樒斬すれば一撃で敵は死ぬって
Yeeeeeeeeeeah!!!!!!!
これで大筒士の準備はバッチリじゃい!!!!!!
ソテツは風神(春野鈴女様)の孫で土神(木曽ノ春菜)なだけあって風と土がやはり良い! この調子で伸ばしてって~~
真砂の太刀!! 真砂の太刀!!
山茶花にプレゼントするから頂戴します!!!!!
澄ちゃんサイコー!!!!
へへ……ほら山茶花…………おじさんからのプレゼントだよ……気に入ってくれたら嬉しいな……(誰)
大江山を越える時に実力を認めたのか、澄ちゃんだけはずっと樒に向けてくれるんですよね。彼女以外からは鏡人気がほぼ無いのが現実……
ソテツって女性陣を素直に慕ってそうなイメージ。でもこの鏡は澄の強さと脆さを知りたくて向けた気がする……
でもここはサクサク進めて奥にいきます
薙刀で列攻撃するの気持ち良いですよね……
これ以上奥に行って大丈夫なのか……ちょっと様子見してヤバかったら戻ろ(チキン)
運良く向こうの出番無く戦闘終了
山茶花は年齢もあって技の伸びが良くなってきてますね。盾役なのでまだ体土が伸びてくれるのは嬉しい
ソテツは水が弱い? 風と土が良く伸びている気がする。取り敢えず功徳の拳はまだ着けてて貰おう
あ゛゛これはヤバい……!!
ヤバいヤバいソテツが死ぬ!!いや樒もレッドゾーン!!!!
回復、回復せねば……!
ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛それでもソテツが死にそう……!!!!
澄ちゃんごめん一撃必殺お願いします!!!!
確かオーバーキル。奥義の強さをしみじみ味わいました
覚えててくれて良かった……軽率な行動してごめんよ;;;;
赤い火のおかげで沢山アイテムをゲット。でも満杯だからどれか捨てないといけない……
ああああ蜘蛛やめてマジで!!!?
これで倒れて……!!!!
あああ硬い!! 敵が強大化した事実がひしひしと突き刺してくる……
自分も体力半分になっていると言うのに……ソテツは一戦力はともかく、将が倒れたらそれまでという事を理解している子なんだろうな
このままじゃちょっと危ないな……
回避……! 流れが敵に向いてますね……
澄ちゃんのターンです。健康度は80、彼女の若さなら二回打っても問題無いはず……
完璧に澄ちゃん頼りになってる……これは駄目なヤツだ。この討伐終わったら一人反省会しよう……
大将撃破! 何とか無事です……
最後に一度戦って……
最後の火が小さくなってきたので、ここで今月の討伐は終了です!
モードをしっかりに戻します
澄ちゃんだけでなく樒も奥義放ちまくったからなー……敵が強くなってるのを凄く実感した討伐でした
今月はここまで。お付き合いありがとうございました!
とても幸せでした
「かえってきた! 梔子の兄御、皆がかえってきたぞ!」
「お、ほんとかー?」
「うむ! その目でしかとたしかめよ!」
ソテツの言葉を受け、三人は弾かれた様に門の外へと顔を向けた。舞い落ちる粉雪の中、確かに此方へ向かってくる見慣れた姿が視界に映る。
寒い中門柱近くで帰りを待っていた芥子、恒春、梔子、ソテツの四人は白い息を吐き、自分達に気付いて手を振る彼等に応え、同じく振り返す。
「ぱっと見た感じ、誰も大怪我はしてねぇな」
「ええ、良かった」
「そうだね、五体満足みたいで安心し……ちょっと待って兄さんステイステイ、ステイして。お願いだから傘から出ないで」
安堵の息を吐く芥子を他所に、恒春の持つ傘の下で雪を凌いでいた梔子が自分の調子を顧みずに出ようとした。日頃兄にツッコミを入れていたせいで鍛えられた瞬発力のお陰で襟首を掴むことが出来たが……この馬鹿兄、己が弱っている自覚はあるのだろうか。無いのだろうな。
捕まえた手が当たって冷たかったのか、梔子はうぉつっめ!?と訳の分からない言葉を叫んで飛び上がった。
冷たくて当然だろう、自分は芥子と二人で老人と子供が寒さで風邪を引かない様、傘を持つ為に外気に手を出していたのだ。心臓に悪いことをして多少の申し訳ない気持ちになるが、まあ元気に飛び上がれるならきっと大丈夫だろう。きっと。
それに謝ったら調子に乗りそうだ、ここは憮然とした態度を取った方がいい気がする。
「待ってたら皆帰ってくるから。お願いだから兄さんは傘の下から出ないで。……凍死したいの?」
「ちょっとくらいなら問題無ぇってのー……」
「その自信は何処から湧いてくるのよ、もう」
「だって見ての通りおれすっげぇ元気だろ? 自信の源はそこだな!」
自分を指差しで笑う兄の姿を見て、恒春は芥子と目を合わせて同時にため息を吐いた。ヘラヘラとしている兄を他所に、自分と芥子は今きっと似たことを考えているのだろう。ついさっきも苦しそうに蹲っていた癖に、よく言うものだ、と。
「あ、澄が……あー弓が………あー……あれ樒引っ張られてね? いや、振り切られない様にしてるってのが正しいか……?」
「俺はこうしゃだと思うぞ! このままだと突っ込んできてきそうだな!」
「……え?」
兄と息子の言葉を受けて、恒春は彼等の方を見た。するとそこには全速力で門前に居る自分達へと走っている澄、手を離そうとされても無理矢理繋ぎ直して少し遅れながら走る樒、遅れて二人を追い掛ける山茶花、二人が走りながら落としていった武器を回収する芹……と言う何とも言い難い光景が広がっていた。
「っ……!!」
「澄止まれ、落ち着け、雪降ってんだ滑って転びたいのか!」
「ふ、二人共待って……!」
「全く、武器は大事にしましょうねー」
澄は雪に足を取られることなく、樒を連れて一直線に自分達へと駆けている。あの速度では雪で滑る地面のせいで目前で止まるのは難しく、ぶつかる可能性がとても高いと恒春は推測した。自分や芥子ならば耐えきれるだろうが、まだ小さい息子や、弱った兄では吹き飛ばされてしまうに違いない。
恒春は素早く脳を回した。澄の体の向きや何度も向けている視線の先から推測するに、飛び付きたい相手は父である梔子だ。この思考に間違いは無いと思う。
となると問題は、今の梔子では受け止めきれる力がほぼ無いことだ。どうするべきか、取り敢えず倒れない様に支えればいいのか……。
(今の兄さんじゃ受け止めるなんて無理だろうし、後ろから支えていればいいよね)
走ってくる澄達を呑気に眺めている兄の背に手を添えていると、隣に居る芥子が傘を閉じ、ソテツの肩に手を置いた。何をするのだろうと横目で見ていると、芥子は息子だけでなく自分達へ指示を告げた。
「ソテツ。梔子が倒れない様に、恒みたいに背中を支えてあげて?」
「うむ、あいわかった!」
「恒はそのままで支えていて。出来ればの話になるけれど……私は樒を引っ張って受け止めるわね」
「ん、お願い」
「ええ」
芥子は頭が良い。普段や戦闘においても、自分が考えている間に彼女は直ぐ思考を纏め、案を出している。芥子のそういうところを見ると、何だか鼻が高く思えてしまう。
「なー、おれには何かねぇの?」
「心構えしてなさい。抱き付かれた衝撃で心臓止めないように」
「おれそこまでジジィじゃねぇんだけど!? あと止めねぇから!!」
「はあ……兄さんうるさい騒がないで喚かないで息だけしてて」
「うっわ恒春が辛辣で兄さん悲しい……!」
大袈裟に言う兄を無視して、芥子の側から抜け出して動いたソテツの頭を撫でる。理解力が早く溌剌としたいい子な息子だ。父として誇らしい。
そんな言い合いをしているうちに、あっという間に目の前に来た澄達。
澄は泣きそうにくしゃりと顔を歪め、強く梔子に抱きついた。
「ッッ……お父さん!!」
「っ、!」
「うぉお゙っッ!?」
「樒はこっち、よっ」
自分とソテツが支えておいたおかげか、梔子はうめき声をあげるが倒れることなく娘を抱きとめた。
一人止まれずたたらを踏んでいた樒は、芥子が腕を引いて勢いが分散した結果転ばずに済んだ。
「お父さん、お父さん……!」
「ふー….危ねぇ危ねぇ……よーしよしよし、おかえり澄」
「~~~~お父さん!!」
「ぐっ、力つよ……!!!」
父の無事に歓喜したのか、更に抱きしめる力を強める澄。しかし強くし過ぎているのか、恒春の目の前で梔子は呻いてのけ反り出した。感動の瞬間なのだろう。だが兄が本当に苦しそうなので、澄には悪いが無理矢理引き離す。
「はあ….澄、兄さんが鯖折りになりかけてる。ちょっと落ち着いて」
「そうだぞ澄。兄御がつぶれかけておるぞ?」
「え、あ….ごめんなさいお父さん。……大丈夫?」
「へーきへーき。だから気にすんな」
体を摩りつつ、梔子は安心させる様に澄の頭を撫でた。
撫でられた澄は、目尻に涙を浮かべつつも嬉しそうに、安堵した様に父に向けて同じく笑顔を浮かべる。そして今度は猫の様に擦り寄り、梔子の腕に彼女は抱きいた。少しも父と離れたく無いと、何故だかそんな風に恒春は思えてしまった。
ざっと、視界外から雪を踏む音が聞こえた。何だろうと見てみると、事故にならない為に手を引かれ少し離れた場所に行っていた芥子と樒が近くに来た様だ。目が合った樒に手を振ると、彼は軽く会釈をした。
「ただいま。問題は無かったか」
「ん、おかえり。見ての通り、みんな元気だよ」
なら良かったと樒が言葉を返していると、山茶花と、彼女に遅れて芹が漸く門まで辿り着いた。自分の槌に加えて二人分の武器を抱えて走ったのか、芹はぜえぜえと息が荒くなっている。
「はあ、はあ、はーーーー….疲れた……」
「おかえりなさい、芹、山茶花。無事で良かったわ」
「お、お前らもおかえり。元気に帰ってきてよかったぜ」
「ただいま……。もう、澄ちゃんも樒ちゃんも急に走らないで……!」
くっつき虫になっている澄を連れて、梔子は帰ってきた三人の頭もくしゃくしゃと撫でる。樒はじっと静かに撫でられ、芹は笑顔でお礼をいい、山茶花は嬉しそうに喜んだ。
粉雪が舞う中、再開した家族達はみんな寒さを忘れ、一先ずは全員の無事を喜んだ。どうして呪いが解けていないのか、大江山のあの光は何なのか、そんなことは後回しでいい。帰ってきた彼等を労るのが第一だ。
(積もる話もあるだろうし、取り敢えず全員中に入ってもらおう。外にずっと居る訳にもいかないからね)
恒春が場に居る全員に声を掛けようとするよりも早く、澄が心配そうな声色で口を開いた。
「ねえお父さん、寒いの? 震えてる」
「え、そうか?」
「……うん。体、冷たくなってる」
声を聞き梔子を見てみると、彼は震えを紛らわせる為なのか、娘に取られていない空いてる側の手で体を摩っている。温めようとしているのか、澄が己の首に梔子の手を触れさせていた。
……外に出る前と比べて、兄の顔色が悪くなっている様に見える。元々白かったが、今は青白いという言葉が適切に思えてしまう。少しでもマシになるだろうと、恒春は自分が着ていた羽織りを脱いで兄の肩に羽織らせた。直ぐにでも兄を家に放り込まなければ、風邪を引くかもしれない。
「兄さんもみんなも、もう中に入ろ。イツ花が炬燵を入れて部屋を暖かくして待ってるよ」
「風呂の準備も出来ているぞ!」
「風呂か……」
「寒いから炬燵より風呂かな……この格好寒い…..」
「見るからに寒そうだよね、その戦装束。私はどっちでもいいかなあ。
澄ちゃんはどっちがいい?」
「姉さんと同じ、どっちでもいいよ」
各々どうするか話ながら、みんなで門をくぐって家に入るべく歩いて行く。
寒い寒いと足早に先頭を歩く芹を筆頭に、元気よく芹に話しかけるソテツや、隣り合って和やかに話す山茶花と芥子と、総勢八人の大行進。ひっつき虫と化した澄を連れているからか、自分と樒の前を歩いている、梔子達の足取りは少し遅い。
「随分とべったりになってるね」
「そうだな」
自分の少し後ろを歩く樒に、振り返らずに話しかける。全員が無事に家に入るのを確認したいのか、まだ何か警戒しているからかは分からない。だが最後尾で家族を見守る長の声は、いつもと違い憂いを感じさせた。
「……ねえ、何があったの?」
「あとで話す。立ち話で終われない」
「……そっか、そうだよね」
顔を反らして、こっそりと後ろの様子を盗み見る。彼は自分を見ている恒春に気付かずに、耳で揺れる浅葱色の飾りに触れていた。
(何があったかは分からない。だけど、何かは確実にあった。だからオレ達の呪いは消えていない、寿命はそのまま……….はーあ。寓話みたいに、めでたしめでたしになれたら良かったのに)
ほんとウザい。心中で大きく溜息を吐いていて前方を気にしていなかったせいか、恒春は前を歩いていた筈の梔子とぶつかった。
「だッ、あ、ごめん兄さん!」
慌てて兄が衝撃で倒れてしまわないかと肩を支えたが、梔子は重心がぶれること無く立っていたので、恒春はホッと安心して肩を撫で下ろし息をつく。
「もう。急に立ち止まらないでよね、邪魔なんだけど。
それにもし転んだら大変で……」
「……」
「梔子兄さん?」
「お父さん? どうしたの?」
「どうかしたか」
いつもの癖でつい憎まれ口を叩いても、兄は何も反応を見せない。顔を上げ、ただじっと空を見つめていた。不思議に思い再度声を掛けるも、梔子は応えない。そばに居る澄や数歩後ろに居るも心配するも、梔子は気付く様子が無かった。
「ねえ兄さん、兄さんってば….」
「兄さま澄ちゃん樒ちゃーん。まだ入らないのー?」
「早く入らないと戸、閉めるわよー」
未だ家に入らない自分達を呼ぶ為か、芥子と山茶花が玄関から顔を覗かせた。兄は二人が呼んだことに気付いていないのか、ずっと空を眺めている。
何度も呼びかけているのに、流石にこれは可笑しい。周囲に居る自分達三人は目を合わせると、各々兄の意識を呼び戻そうと一致団結した。その時、
「ああ、やっぱり」
「お父さん……?」
「澄」
「え.....っ?」
ここでは無いどこかを見ていた青い瞳は、親愛の情を込めた笑みを虚空に向けた。その様子を見て心配そうに父を呼ぶ娘の声がやっと届いたのか、慈愛の眼差しを持って澄に応えた。
(“やっぱり”.…? どういうことなんだろ。ていうか、不安になるから無視しないでよね)
さっきは何でぼおっとしていたんだ、急にどうしたんだ、怖いことするなと、恒春の胸中は心配からくる減らず口が沢山込み上げる。
だけど、梔子の眼差しがとても優しくて。さっきとはまた違う普段とは変わった様子に、恒春は喉元まできていた言葉を飲み込んだ。
「お前達が元気に生きてる、それだけでおれは幸せなんだ。だから、いいんだよ」
「え?」
「いいんだ」
有無は言わせない。そう思わせる程力強く、だけど優しく、兄は澄へと言い聞かせた。
どこか様子が違う梔子を見て、玄関から芥子達が出てきている。澄も樒も、….勿論自分も。何かを感じ取り、不安げに兄を見ている。
だけど梔子は、そんな周囲などお構い無しで。澄の腕をそっと振り払うと、仰々しくわざとらしく演技掛かった仕草で両手を広げると、ニヤリと笑って自分達に言の葉を告げた。
「誰かさ、おれのこと、“忘れない”って言ってくれよ」
満面の笑みで、兄は言った。樒も澄も、芥子も山茶花も、梔子の言葉がまるで最期の言葉に聞こえたのだろう。笑顔な元凶と反比例するかの如く、悲しげな面持ちになっている。
自分もきっと、周りと似たような顔になっているのだろう。似た気持ちになっているのだろう。だが、だがそれ以上に、
「縁起でも無いことするのやめてよねこのバカ!! バカ!!!!!」
「いっっってぇ!!!?」
そこそこ痛いと感じる程度の力を込めて繰り出す肩パン。想定通り痛かったのか、兄は肩を摩りながら蹲った。
(怖いことしないでよ、縁起でも無いことしないでよ。ほんと最悪バカ兄貴!!!!)
今日程、いつも捻くれた言動をしていて良かったと思う日はもう来ないだろう。
鍛える気は全く無かったと言うのに、磨き上げられた条件反射の憎まれ口おかげで、そのまま兄は死ぬのでは無いかと不安に思える空気が離散したのを感じとる。
「こーしゅん君読もうぜ!? 人が真剣に話してたってのに!!」
「だってイラッとしたから……」
「だからって肩パンはよくねぇよ? お兄ちゃん泣くぞ??」
「勝手に泣けば?」
「ひっでぇ!!」
おいおいと嘘泣きを始める兄を見て、芥子達も安堵した表情を浮かべた。心臓に悪いことを、もうしないで欲しい。
「ああもうほら、いいから家に入るよ!」
「あ、ちょ、引っ張るの無しああああ襟がっ襟が伸びる澄ー!」
「へ、あ、恒春兄さんお父さん困ってるよ、やめてあげてっ」
「……ごめんやだ」
いくら可愛い妹の頼みであろうとも、流石にさっきの兄のしでかしたことは恐ろしすぎることだ。だからこれくらいの仕返しはさせて欲しい。
「そうね、偶にはそんな風にされもて良いんじゃないかしら?
捕まえている限りは、何処にも勝手にいけないでしょうし」
「芥子!?」
「んー….うん、そうね。梔子兄さまは捕まえていないと飛んでいってしまいそうだものね」
「山茶花もかよ!!」
「……自業自得」
「樒聞こえてっからなー!!」
「はいはいさっさと入ってよね!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ兄を玄関に放り込む。傘を傘立てに入れると、周囲に扱いが雑だと抗議している梔子を無視してさっさと下駄を脱ぎ、再度兄の襟を掴んで今度は炬燵がある居間へと引き摺る。まだ下駄をちゃんと脱げていないという声は勿論無視だ。
「ごめん誰かおれの下駄綺麗に並べてくれ!」
「はいはい並べておくわ。だから早く炬燵に入りなさいね」
「しーちゃんは先にお風呂だよね?」
「ああ」
廊下を進むにつれて、芥子達の声が遠くなる。兄は抵抗も文句も諦めたのか、大人しく自分に引きずられ床と着物を摩擦させている。
ソテツ達の姿が見えないが、二人は先に居間に行ったのだろうか。それとも芹が風呂に入りたがっていたからどちらも風呂場に居るのだろうか。
玄関に居る彼女達の声がほぼ聞こえなくなり、周囲に人の気配を感じない。念の為周囲を見回すと、恒春は一つ、疑問に感じていたことを兄にぶつけた。
「……梔子兄さん」
「ん〜?」
「さっき“やっぱり”って言ってたでしょ。あれ、どういう意味なの」
最早引きずれることに慣れてきたのか、梔子は体重をこちらに預け切っている。正直重い。
恒春が視線を寄越すと、兄は思案する様に顎に手を添えて考える素振りをした。少し考える様に首を捻らせていたが、まあいいかと数秒もせずに判断すると、にっと歯を見せて楽しそうに笑って教えてくれた。
「おれさ、こう見えて寂しがり屋なんだよ」
「は?」
「だから忘れられると、正直すげぇ悲しい。でもあいつは、」
そこで一度口を閉ざすと、兄は懐かしむ様に目を細め、また空を見つめた。
「————あいつは、向こうにいっても覚えて待っててくれたみたいだ。
声がしたんだよ、おれを呼ぶあいつの声が。
わざわざ迎えに来てくれたとか、嬉しいよな」
「おれたちはさ、二人で一つだったんだ。ずっと一緒だった。相棒だった。
だから一人になってからは、いつも違和感があったんだよ。おれの半身がないんだ、当たり前だよなー」
「耄碌したせいでみた幻覚かもしれねぇ。
それはそれで良いと思ってる、向こうにいった時の笑い話になるからな」
「やっぱり、おれにはあいつだったんだ。おれの人生は.…….」
そこまで言うと、兄は心底幸せそうに瞼を閉じた。
(.……………ふざけるな)
そんな兄とは裏腹に、恒春は言い表せない強い感情が心に浮かび上がる。上手く言語化は出来ない。変わらず強い絆で結ばれているその事実が、今は良いものには思えなかった。
もう満足です充分ですとでも思っているのだろうか。……そうなのだろう、この兄はひどく自分勝手だから。良い意味でも、悪い意味でも。
「じゃあオレが声掛けなかったら臨終してたの?」
「かもな!」
「うっわ最悪、後のこと考えてよね」
「はは、悪ぃな」
悪びれもなく告げる兄に、もうため息しか出ない。
そうこうしているうちに居間の前に辿り着く。ソテツ達はやはり風呂に行っているのか、部屋には誰も居なかった。
「ほら兄さんさっさと温まって。風邪引いたら大変でしょ」
「わーってるって。はーあったけぇ」
梔子は炬燵に直行すると、中に潜り込み暖を取る。恒春も同じ様に炬燵に入ると、そう言えば手を洗って無かったなと気付く。だがまずは冷えた体を温めたかったので、恒春は後回しにすることに断した。
そこそこ体が温まったら、梔子を連れて手を洗って居間に戻る。
襖を開けると、芥子達女子三人が炬燵に入っていた。どうやら自分が出ているうちに温もりに来ていた様だ。一人居なくなっている樒の所在を尋ねると、彼は風呂に向かったらしい。
「炬燵さいこー……」
「それなー……」
「二人とも、樒達がお風呂から帰ってきたらお祝いの鍋をするから、寝たらダメよ?」
「「はーい……」」
炬燵に身を委ねている梔子と澄を見て、恒春達はなんだか可笑しくなって笑い声を上げた。
元気のある自分や芥子と、台所で準備をしていたイツ花と共に鍋の準備を進めていく。
色々と積もる話があることは分かっている。でもまずは、無事にまたみんなでご飯を食べれる事実を大切にしたい。
樒達が戻ってきたら、全員手を合わせてからの鍋大会。食べ盛りが沢山いる我が家では、あっという間に食材が無くなっていって、それが可笑しくてみんな笑った。
家族みんな満足するまで食べて呑んで、めいめいに眠気や風呂に入る為に離脱していく。
兄は、自分と芥子の三人で最後まで起きて酒を酌み交わしていた。
子供たちに呪いを残していくのは心残りだと言ったのは、今代で終わりにしたかったと、会いにいくことは出来ないんだと惜しんだのは、一体誰だったか。酒のせいで記憶が定かではない。でも、兄がちゃんと布団に入っていったことは覚えている。おやすみと言ったことも、覚えている。また明日と言っていた。
だけど次の日の朝、兄が起きてくることは無かった。
遺恨怨恨ラプソディ
見上げた先に映るのは朱点童子だったモノと、その中から出て来た見知った存在。死闘の末に築き上げた亡骸から出てきた存在こと黄川人は、ようやく外に出られて興奮からなのか、ペラペラと忙しなく好き勝手に口を動かしていた。
眼下に居る己達を嘲るが如く一人好き勝手に喋るその様に、樒は不快感から眉間に皺を寄せる。
「────そうそう、君たちには感謝してるよ」
反射で臆してしまいそうな程の圧倒的な力を見せびらかしながら、黄川人はふわりと宙へ浮かんだ。上から見ると殊更小さきモノに感じるだろう樒達に、奴は見下しの目と共に白々しい謝礼を口にした。何が感謝しているだ、胡散臭い。
何をするつもりか分からない黄川人に隙を見せない様、樒は薙刀を構えた姿勢のまま一瞬だけ視線をズラし、近くにいる仲間の様子を伺った。
山茶花と芹は、自分と同じく武器を構えている。澄はこの事態に特に動揺しているのか、弓を握り締めていた。山茶花の顔には僅かな動揺が、芹は見定めるかの様な目つきをしているのが見て取れたが、俯いていた澄だけはどんな顔を浮かべているかは分からない。
(今まで対峙してきたどの鬼よりも、黄川人から強い力を感じるな……強者なら強者らしく、馬鹿みたいに余裕を見せて油断してくれたら楽なんだが)
状態を把握する為に再度目を向けたかったが、生憎また隙を突くのは難しいのが正直な現状だ。
「あのカッコ悪い鬼の姿のまんまじゃ……ボクの力は半分も出せなかったんだからねえ!」
樒達四人に構うこと無く、黄川人はケタケタと甲高い笑い声をあげる。……登る前に初対面した時から思ってはいたが、この男、胡散臭いという言葉が本当に似合う男だ。
「……攻撃の可能性に備える。隊列は俺と山茶花が前衛だ、いいな?」
いい気持ちで嗤っている黄川人に聞こえない様に、樒は抑えた声量で指示を出す。うん、畏まりましたと山茶花と芹が了承の言葉を口にするも、澄だけは一向に返事を返さない。
「澄ちゃん武器を構えて。気持ちは痛いほど分かるわ、でも今は……」
「攻撃に備えろ、澄。無理ならせめて後ろに下がれ」
樒と山茶花が小声で促すも、俯いた澄は全く動くかない。
このままでは危険だと、僅かに焦りの気持ちが滲み出てゆく。その胸中に蓋を被せながら、樒は澄に視線を向ける。と、
(……? 弓が、震えている……..?)
長く綺麗な赤い髪に潜む様に、カタカタと澄が握り締めている弓が震えていた。
密かに会話をしていたとは露知らない黄川人はと言うと、嘲笑に飽いたのか唇に弧を描くのをやめ、真っすぐに憎悪の籠もった声を張り上げる。
「さあ!! 復讐の本番は」
黄川人が声を張り上げると共に、場を支配する重圧感が増幅し、肌を刺す圧迫感も強まった。
「ここからだ!!」
「ッ、澄!! 止まれ!!!」
突如顔を上げた澄の瞳は憤怒で濡れていた。嫌な気配を感じて上げた樒の声と圧を強める黄川人の言葉と同時に、彼女は一直線に怨敵の元へと駆け出した。
駆けながら矢筒から一本の矢を取り出すと、澄は黄川人目掛けて即座に放つ。
「ーーーーッッ!!!」
「おっと、危ないなあ。
君さ、人に物を向けちゃ駄目だって母さんや父さんに習わなかったのかい?」
飛んで火に入る夏の虫という諺ほど、今の彼女にお似合いな言葉はないだろう。明確な敵意を持って放たれた矢を、黄川人は幾度なく軽々と躱してみせた。悲しいかな、澄の攻撃はあの憎たらしい男の上衣を掠ることすら出来ない。
階段の最上段の上で浮いている黄川人を仕留める為に、何度躱されようが澄は挫けずに攻撃の手を止めないで駆け上がる。今の彼女の瞳には、自分達の祖先に呪いを掛けた元凶のあの朱色しか見えていないようだった。
「あー……澄ちゃんどうみても暴走していますね、あれ。大変だ」
「冷静に状況報告してる場合じゃないと思うよ?! ……樒ちゃん!」
暴走している澄と、そんな彼女を軽々と避けて遊んでいる黄川人。一方樒達はと言うと、呑気にボケとツッコミをしている芹達を他所に、樒らどうこの状況を崩すか考えている最中だった。
(黄川人はまだ本気になっていない。アイツが澄を下に見ているうちに回収するべきだ)
油断ならぬ現状に、自然と眉間に皺を寄せてしまう。ため息も吐きたい気持ちだが、今はそんなことをする時間すら惜しい。樒は己の言葉を待つ山茶花達に指示を伝えた。
「当主の指輪を黄川人に向けて使う。意識がこっちに向いたら俺が澄達の間に立つ、山茶花達はその間に澄を捕まえて抑えろ」
樒の言葉を聞いて、山茶花と芹は即座に頷いた。
「分かったわ、樒ちゃんも気をつけて」
「畏まりましたっと」
左手の人差し指に嵌めている指輪に手を重ね、初代の父の名を心中で呟く。
するとその声に応える様に、古ぼけた指輪が輝き出す。
樒が動き回る朱点童子に向けて手を突き出すのと同時に、山茶花達はその場を勢いよく飛び出した。
「当主の指輪……いけ!」
「いくよ芹ちゃん!」
「分かってる!」
初代の父、源太の影が黄川人に向かって走り行く。指輪の力が発動したのを認識するや否や、樒も皆に続いて地を駆けた。早く、早くあの暴走した妹を守るために。
──────時は少し前に遡る。射てども射てども、澄の矢は黄川人に届かない。こちらがどれだけ狙いを定めても、どれだけ術を放っても、決してあの鬼に当たら無い。
更に憎たらしいことだが、黄川人はワザとあと少しであたりそうなスレスレで避けるのだ。そのニヤけた顔を見れば分かる、本当はもっと早くに避けれていたのだと。ああ、憎たらしい上に怒りしか沸かない!
「今すぐ呪いを解け!!」
「あははっ! 解くわけ無いだろう!
脅せば解くとでも思ってるのかい? バカらしい!」
鼻で笑われ、澄は心がどんどん燃え盛るのを感じ取った。こんな奴を、さっきまで自分は心配していたのか。こんな奴に、絶対に私達が貴方の呪いも解くだなんてバカなことを宣っていたのか。
樒達が本当に呪いが解けるか疑問視していたのは知っていた。理解しているつもりだった。……しかし所詮、つもりでしか無かったのだ。だから今、自分はこうなっている。
(ふざけないでふざけないでふざけないで!!!今すぐ解かなくちゃ、封印が解けたばかりなら本調子とは言い難いはずだから、きっと今ならできる!! 絶対に絶対に解かせてやるんだ!!!! そうでなくちゃ、お父さんが……!!!!)
そう己に言い聞かせながら矢を放つ。そして射ると同時に術を唱えて、黄川人が居た場所に雷を轟かせる。持っていた術符も投げて海を起こす。それでもアイツはかすり傷一つ負わず、その場に立っていた。ああくそ、くそ、どうして私の攻撃は届かない!!!
「減らず口言うな!!!」
「減らず口ぃ? それはこっちのセリフだよ。
……ああ。そう言えば、先月死にそうな顔をした君と同じ赤い髪の弓使いが此処に来ていたよね。もしかしてさあ……君のと う さ んだった?」
「…………ッッッッ!!!!!」
ぶちり、自分の中で何かが切れる音がした。目の前が真っ赤に染まる、目の裏がチカチカと輝く。……これは駄目、駄目だよ。冷静な思考の自分が、遠くから声を投げかけたのが聞こえた。
それでも、澄はもう止まれない。乱暴に矢筒から取り出した二本の矢を、澄は加減も考えずに目一杯弓に番えた。
「死 ねえええ!!!」
「あはははは! 無理ムリ、そんな攻撃当たるわけ無いだろ? その反応はずぼ……ッ!」
──────そして時は戻り、祖先の父が黄川人に向かって刀を振り下ろす。
突然現れた存在に、意識の範疇からお互い以外消えていた二人は一瞬動きを止めた。
「芹、受け止めろ!」
「はいはーい」
「な゙ッ、ぅあッ!!?」
誰よりも最後に動き出したが、誰よりも俊敏に動くことが出来る樒が山茶花達を追い越して澄を捕まえる。
そして彼女の襟首を掴み、黄川人や己達から一番遠くに居た芹へと投げた。
「おっ……と。ナイスキャッチだ、僕」
「いいよ芹ちゃん! そのまま澄ちゃんを離さないでね!」
「もちろん。わかってるよ姉上」
「な、何、離し……!?」
「駄目だよ。澄ちゃんは僕と一緒に樒様と姉上に守られていようねー」
困惑した澄が目を回しているのをいいことに、芹は今のうちにと彼女を羽交い締めにして、武器から手を離させる。
山茶花は二人の前に立って刀を黄川人に向け、いつ此方にやって来ても後ろの二人を守る体勢を整えた。
(澄を抑えるのには成功した。後は……)
三人の様子を確認して、樒は小さく安堵の息を吐く。もう澄は芹達の元にいる、ならば自分も自分のすべきことをしよう。
顔を上げ、樒は面白くなさそうに自分達を見る黄川人と相対する。
「君といいその子といい、君たちの中で不意打ちがするのが流行ってんの?」
「……」
馬鹿にした口調で問う黄川人に対して、樒は薙刀を構えるだけで何も答えない。
煽りに乗らず無言で武器を向ける樒を、朱点童子はつまらなそうに見下した。
「さっきの子に比べて、君はつまらないなぁ。まッ、ちょうど飽きてきたところだったからね。どうでもいいや」
重力に逆らい、黄川人は再びふわりと宙に浮かび上がる。すると彼の真下の地面が紋様を描き、妖しく光り輝いた。
「今すぐ殺すだなンて、そんなのつまらないだろ? だからさ、今日はもう去ってあげるよ。いやぁ僕って本当に優しいよね!」
その言葉を受け、一番反応を示したのは澄だった。逃がすものかと拘束から逃れるべく暴れる彼女を、芹は捕らえる力を更に強めて拘束する。
背後から抜け出そうと奮闘している音が聞こえるが、目の前にいる黄川人が急に気を変えるかも知れない今、樒は加勢に行くことは出来ない。
「待てッッ!!!」
「駄目だよ澄ちゃん、動かないで」
抵抗している澄を一瞥して、黄川人は嘲笑を浮かべた。その笑みを見てしまったのか、後ろで暴れていた彼女が藻掻く音がピタリと止まる。
その様子に満足したのか、黄川人は印の中へ消えていく。
去ったのかと樒が思案するよりも早く、奴は印から顔だけ出して此方を見やる。
「また会おうゼ、兄弟」
印は波紋描き、黄川人は消え去った。
この場を支配していた朱点童子が去ったからか、朱点閣を包んでいた重圧感も無くなり、樒は息がし易くなったのを実感する。
警戒しながらも奴が消えた場所を注視し、完全に印が消えたのを確認する。何も気配を感じなくなったその場を見て、樒はほっと肩の荷を少し下ろす。念のために警戒心は残したまま、後ろに居る芹達に声を掛けた。
「……芹、もう離してやれ。山茶花も警戒レベルを下げていい」
「わかりまし……あ」
「ッ!!!」
芹が力を弱めるや否や、澄は瞬く間に拘束を荒々しく解き樒が立っている黄川人が消えた場所まで走りよる。
「いない……いない、何処にも……!!!」
「澄ちゃん……」
地面を詳しく見るも、もうこの場には何も無い。澄は崩れる様に膝を着き、爪が割れるのもお構い無しに拳を叩きつけて強く土を掴んだ。
少し遅れて合流した山茶花達は彼女に何て声を掛ければ良いか分からず、口を濁すことしか出来なかった。
「…………ちくしょう、ちくしょう。ちくしょうちくしょうちくしょう!!!!!!!!!
うゔ、ぅあああ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!!」
行き場の無い気持ちを吐き出しているのか、澄は瞳から大粒の涙を幾度も落とした。血が滲み爪がめくれ上がることも気にせずに床を強く引っ掻いては叩き、下を向いたまま叫び声の様な嗚咽を零す。
己は、妹の心を軽く出来る様な気の利いたことを言える口をしていない。山茶花も芹も、今の澄に掛けれる言葉を、誰も持ってはいなかった。
(もし、あれで終わりだったら。そうしたら澄は、梔子は……。
………いいや、そんなもしもは無い。無いから、こうなったんだ)
……数分、十数分は経っただろうか。澄の嗚咽止まって落ち着いてきたのを確認して、樒はしゃがんで声を掛けた。
「……澄」
「……」
チラ、と赤い髪の隙間から、泣き腫らして潤んだ緑色と目が合った。
「帰ろう、皆待ってる」
「……」
「ここに居ても、何も変わらない」
「…………わかってるよ」
手を差し出すと、澄は目を擦りながら樒の手を取った。
四人でもう用はない朱点閣を後にして来た道を戻るも、山全体に居た鬼は誰一人いなかった。
前方に山茶花、殿に芹。中央は手を引く樒と鼻をすすりながら引かれる澄。
家で待つ者達のことを思い心が重くなっていくのを感じ取りながらも、四人は帰路へ着くのであった。