百鬼一族 血脈の書

百鬼一族 血脈の書

当サイトは俺の屍を越えてゆけ リメイクのプレイ日記となります。

冬が終わると何が来る?

12月は終わった。大江山の門は閉じた。あたしの年齢を考えると、また開く姿を見ることはないだろう。百鬼伽羅こと百鬼浅葱、1歳4ヶ月。鹿子姉と梔子も、きっとあたしと同じ、間に合わずに死んでいく。芥子はもしかしたら生き残れるかも?まだ6ヶ月だし。恒春も2ヶ月だから少しは可能性あるかも。

 

「あーあ!梔子ーぃ、お蜜柑取ってー」

「自分で取れよなー」

「あはは、ありがとー」

 

部屋の隅にある段ボール箱の蜜柑を、梔子は1つ取り出した。ぽいっと軽く投げ渡される蜜柑を片手でキャッチ、流石あたし。珍しくシリアスなことを考えていたけど、ここは居間。皆寒いから炬燵に入ってのんびりしてる。こんな空気じゃ、そんな考え続かないよね。

 

「ちょっと伽羅姉さん、足ジャマ。オレに当たってる」

「ふぁ、ほぉへんほぉへん」

「きゃーら、口に物を入れたまま喋るのは行儀悪いよ?」

「はあ……」

「恒。私の方に足を伸ばしていいよ、こっちはまだ余裕があるから」

 

右側に座っていた恒春が、ため息を付きながら芥子の傍にズレた。一番歳が近いからか、この2人は仲がいい。お姉ちゃんは兄弟仲良しで嬉しいです。

なーんて思いながら、申し訳ないからあたしも反対側に少しズレる。

くすくす優しそうに笑う鹿子姉に笑い返したら、手でごめんとジェスチャーして口の中の蜜柑を食べ終える。

 

「伽羅寄りすぎ。狭い」

「しょうがないでしょ、我慢して」

「狭いもんは狭いんだよ、あと数センチだけで良いから!」

「もー……」

 

イツ花さんが天界へ鹿子姉の子供を迎えに行っているから、今ここに居るのは5人だけ。

炬燵は四角形。必然的に誰か2人は同じ側面から入ることになるけど、テレビを観る場合は真正面に誰か座ると観がたくなる。だからあたしから見て右側に恒春と芥子が2人で。テレビの正面に位置するあたしの位置に、あたしと梔子が。そして左側には鹿子姉が座ってる。

 

最初はあたしと鹿子姉と芥子の3人で、炬燵の前にあるテレビで年始番組を観てた。今年も帝と阿部晴明のパチンコ対決は面白くて、どっちが勝つか3人で盛り上がってた。梔子達が居間に来たのは、安倍晴明が大当たりを引いた位だったかな。外で訓練していたみたいで、二人共鼻を真っ赤にして部屋に入ってきた。

恒春はあたし達3人が入っているのを見て、何処に座れば良いか悩んでた所を芥子が声を掛けて一緒に座った。梔子は当たり前の様にあたしの隣に入ってきた。まあ隣に来ると思ってたから直ぐに端に寄ったけど!寄ってなかったら冷たくなった梔子の着物が当たってたよ、絶対。

それにしても入って直ぐに肩まで布団を掛けて横になるなんて……どれだけ外は寒かったのかな。寒かったら嫌だなぁ、寒いの嫌いなのに。

 

「ね、外結構寒かった?」

「かなり寒かった、雪が降っていたしな。なー恒春」

「と言っても大雪って程では無かったけどね」

「降ってたんだ。そりゃあ寒いよねー」

「冬だもの、寒いに決まってるでしょう」

「ふふ、芥子の言う通り。冬だからね」

「そりゃそうだけどー…もう、冬は嫌ー……」

 

思わずがくんと突っ伏す。あたしは父神が火の神様だからか、夏は好きだけど冬は嫌い。暑い方が動き易い気がする。でも寒いとてんでダメ、体が温まるのに時間がかかる。

 

「……そうだね。確かに、私も冬は嫌いかな」

「え、鹿子姉も?」

 

あれ、鹿子姉の親神って確か水神のみどろ御膳様じゃなかったっけ。不思議に思い、顔を左側に向けて姉の顔を見上げる。視線の先にいた鹿子姉は、何だか寂しそうな、悔しそうな顔で笑っていた。

 

「───だって、冬は嫌な季節だから」

 

私達にとって……、ね。

言葉にはされなかったけど、確かにそう二の句を告げている様に聞こえた。鹿子姉の言葉を聞いて、さっきまで近くに聞こえていたテレビの音が、なんだか遠くで流れているように感じる。

 

そっか、そうだよね……あたし達にとって、冬は呪いを受けた季節で、朱点童子に唯一会える季節だもんね。

はっきりと何月何日だったかは伝わっていないけど、初代当主、あたしのおじいちゃんが呪いを受けたのは大江山でだそうだ。大江山が開くのは冬の間だけ。だから、呪いを受けたのは冬だったって伝わってる。冬だけだから、あたし達の寿命では間に合わない家族も出てくる。さっき考えたみたいに、あたしや梔子……鹿子姉とか。

 

「あは、うん。確かに、冬は嫌な季節だね」

「……そう?寒いのは嫌だけど、嫌な季節ってほど?」

「私もそこまで無いけど……伽羅達は苦手なんじゃないかしら」

 

まだ幼い妹と弟は、あたしと鹿子姉が思ったことには気づかなかったみたい。良かった、それが良いよ。だって考えても、もうあたし達にはどうしようも無いんだから。

 

「んーー……、よっ…と。なに嫌な話で盛り上がってんだ、よ!」

「おぅわ!?」

 

勢いよく起き上がった梔子が、その流れのまま背中を叩いた。凄く大きな音響いたし痛いんだけど!!

 

「梔子!痛いんだけど?!」

「ふぁりぃ、ふぇんご」

「あー!それあたしの蜜柑!!勝手に食べるな!」

 

食べ切って無かった残りの蜜柑を全部口に入れて美味しそうに食べている。皆突然起き上がって人の物を食べる梔子にびっくりして、全員が注目していた。驚いてないで止めれたら止めて欲しかったかなぁ!?

こいつ……食べ物の恨みの恐ろしさを思い知れ……!!

 

「んぐ……、まあまあ。確かにおれも冬は嫌だけどさ?こうも思わねぇ?いつか必ず好きになれる季節だって」

「はあ?何でそうなるの」

「最後まで聞け伽羅。冬って寒いし冷てぇのには変わりないけどさ、絶対に春が来るじゃん。今は耐える季節だけど、暖かい季節は必ず来るんだよ。だって、その為に冷たいなか俺達は蓄えて次の季節に繋げてるんだろ?だから、嫌に思う必要はねーんだよ、春は来る。あと何日何ヶ月かは分かんねえ。それでも春は来る……そうだろ?伽羅、鹿子姉」

 

いつもあたしと馬鹿やってる時みたいな笑顔で、何でもない様に梔子は言う。鹿子姉は、何だか泣きそうな顔で笑い返した。恒春は何言ってんだこいつって顔してるけど……しょうがないか、まだ2ヶ月だもんね。芥子は何となく察したみたい。

 

「……そうだね。いつか春が来るなら、そんなに嫌なものでもないか!」

「だろー?いやあ流石おれ。良いこと言った」

「あはは!自分で言うのそれっ」

「伽羅だってよく言うだろーが!」

「あたしは良いの〜」

「横暴だな!?」

 

じゃれ合っていたら、遠く聞こえていたテレビの音が戻ってきた。鹿子姉がつられて笑う声もよく聞こえる。芥子がまた馬鹿してると言いたげな顔で呆れ笑いしてるのも、恒春が冷めた目で何やってんだって言ってるのもよく聞こえる。

そうだね。春は必ず来るんだから、冬を必ずぶっ倒す為に、今は耐えて耐えて力を蓄えよう。さあて、一先ずは家族でゆっくり過ごそう。もう少ししたら、新しい家族が来る準備でもしようかな。